第7話かんごくぐらし!

アンダーシティアカデミーのヒーロー課の

棟の地下。ここにはある組織が存在する。


その名前は オールジャスティス


名前の通りヒーロー達が

国家公務員として働く職場だ。


異能力を持てば確実にこの職業になる。

花屋になりたくてもヒーローは

有名芸能人並みの知名度がある為

バイトも許されない。

まあ…ヴィランになるなら別だが。



そこの地下エレベーターから

ひとりの黒髪で太い眉毛をした

青年が出てくる。16歳という年齢にしては

少し寡黙で退廃的な空気を漂わせる青年だ。


「やあダニエル!ジャックとクイーンバレルを捕まえたそうじゃないか!

金は少し盗られてしまったが!まあ!

オールOKさ!!ハハッ!」


彼の肩を抱く暑苦しいほど正義という名が

似合う男はトーマス27歳。

又の名をキャプテン・ジャスティス。


オールジャスティスで一番の検挙率を持つ

所謂トップエリートだ。

ちょっとおバカなのと余計な一言が

たまに傷だが本人に悪気はない。


「はい、まあ…彼が現れてからずっと戦ってますんで…対策がとりやすいだけですよ」


「ハハッ!いつもながら謙虚だな君は!

もっと自信を持っていいんだぞ!?

ほらほらスマイル!ヒーローはスマイルが

大事だ!ほら歯茎を見せて!」


「ふが」


「そうだ!もっとニカッ!と笑え笑え!

笑わないからオーガマンはヒーローっぽくないって新聞に書かれるんだぞ?」


「えっ?」


「ああ!すまん!君、新聞読まなかったな!

ハハッ!まあ、そんなもの大したことないさ!オールOK!!」


本人に悪気はない。


「それより昨日撃たれたろ?

医療班には診てもらったか?」


「はい、オーガ状態で撃たれたので

たいして異常はありませんでした」


「相変わらず化け物じみた回復力だな!

あ!オーガは化け物か!ハハッ!すまんすまん!だけど俺の超細胞はもっと凄いぞ!」


本人に悪気はない。


大声で笑うトーマスがエレベーターに乗る

姿を見送ってから


ダニエルは昨日ジャックに

刺された腕をみる。


傷一つ残ってない白い肌が

ダニエルの黒い瞳にうつりこみ

ダニエルはそれをしばらく見つめていた。











歴史の教科書は眠くなるのに

自分の好きな世界の

歴史の本だとどうしてこんなに

読んでしまうんだろう。



僕がこのアンダーシティ刑務所に

ぶち込まれてから

まずはじめにテンションがあがったのは

漫画で読んだヴィラン達が

沢山捕まっているという現状だ。


異能力を持ったヴィランには

ヒーローにも使われる

異能力を制御する首輪がつけられる。

これを考えた人はノーベル賞ものだろう。


故に今僕と同じ個室を使ってる

電光石火のライトニングさんは

ライトニングさんではなく

ただのお兄さんである。




「ジャックと同じ部屋はやだ〜ッ!!!!

だってコイツ無能力のくせにやばいもん!!

なんで俺が!!!やだぁあああああ!!」




ライトニングさんは物凄くビビりで

ヒーロー活動も危険だししんどいから

やりたくないという事で

光速を活かして万引きばかりしてる。

物凄く小物ヴィランキャラなんだが

憎めない。


「みんな嫌だっての、ジャックと同じ部屋とかよ、だから公平にくじ引きで決めて

お前の部屋になったんだよ」

「だからってぇえええええ!!うう…やだぁ…ジャックと同じ部屋で寝れる気がしない…死にたい…いや…死ぬのはやだな」


ライトニングさんは本を読んでる僕を

チラ見してくるので

僕はとりあえず愛想笑いを見せておく。



「ヒイッ…!!」


逆効果だった。

いや、ヴィラン的には正しいのか。



本を読み終わる頃にはライトニングさんも

現実を受け入れ少し落ち着いてきた。


もう全て読み切ってしまったので

看守に他の本はないかと質問する。


看守は疑いながらも

出来るだけ悪影響の無さそうな

絵本やグルメ系の本を持ってくる。


僕が本を読んでいるのは

この世界に興味があるという事でも

あるのだが、正直少し違う。



昨日の夜。

僕ははじめて犯罪を犯した。

銀行に忍び込んで金庫を開けて金を盗んだ。


それだけじゃない。

仲間を守る為だと自分に言い聞かせて

僕は人を殴り、仲間と逃げる為だと

僕はショットガンを人に向けて撃ったのだ。




実際にはオーガマンが来てくれたから

あの場で人は誰も死んでいない。


だけど撃った。

オーガマンが来てくれると

信じて祈ってたとしても。

ジャックのせいにしたとしても







僕はあの夜

本物のヴィランになったのだ。







という事実をすぐには受け止められなくて

僕は本に現実逃避をする。


考えなきゃいけない事はそれだけじゃない。


どうしてここに僕は来たのか、帰れるのか。


ジャックを殺して消した人間は誰か?


ジャックを殺した誰かかグループは

僕の存在に気づいてる筈だ。


まだ僕が狙われてない事を考えると

殺すかどうか検討中なんだろう。

利用出来るとも思っているかもしれない。


とにかくいつか

何らかのアクションが僕にくるだろう。

殺されないなら こちらとしては

潜伏先としてありがたい限り。


それにライトニングさんと同じ部屋で

寝れるなんて一生ない話だ。


監獄生活も楽しまなきゃ!と

僕はライトニングさんにウィンクを送る。


「ヒェッ!!」


あと1カ月くらいはここに住んでいたい…。








「学校の方にはいつも通り

影武者を送るよう手配して

おりますので ご心配はなく」

「おー」



アンダーシティ刑務所の庭は男女共有で

脱獄計画を話し合っても

基本的には問題はない。


クイーンバレルちゃんは囚人服で

メイド要素がゼロになってしまったが

動きというのは人を表すようで

メイド服が見えるよね幻覚だけど。



まあ、なぜ問題ないかというと

昨日の大規模銀行強盗を行なった

ヴィランズは全員捕まっている。

その半分近くをキャプテン・ジャスティスが

1時間以内に捕まえたという。


つまり火をつけてもヒーローが

即座に消化してしまうのだ。



これは漫画を読んでた

僕にしかわからない事実だが


アンダーシティの上層部は

僕らヴィランがいる事でヒーロービジネスを

成り立たせているところがある。


ヒーローという兵器を

一般人に浸透させる為には

ヴィランにはある程度はいて欲しい。


要するに犯罪はタダで使える宣伝場なのだ


そんなことを考えていると

クイーンバレルちゃんはじっと僕を見つめる


…顔が近い


これじゃキスしそうな

空気じゃないか?みんなみてるよ?

監獄ラブコメ起きちゃうよ…?



「…ボスちゃん」

「な…なんだ…?」




「ボスちゃん、最近なんか変ですよ?」

「へっ?」

「昨日どうして私を助けて川に落ちたんですか?ボスちゃんなら囮になった私を見捨てて

いつも通り今頃助けに来てくれた筈です」


「あ」


そりゃそうだ、そこまでが

この2人のテンプレなのだ。

ジャックを狂愛するクイーンバレルちゃんは

自ら囮になったりさせられたりしても

必ずジャックはどんな状況でも

クイーンバレルちゃんだけは

牢屋をぶち破って助けにくる。


だけど昨日の夜

僕は無意識に彼女の手を握り

川に飛び込んだ。

そりゃ違和感この上ない。


「それは…」


なんて言うのが正しいのか

どう言えばジャックらしいのか


クイーンバレルちゃんは

おばかさんではない。むしろ賢い子だ。

違う事を言えばその時点でバレるだろう。


当たってるかはわからないが…

黙ってても余計に怪しまれるだけだ

唾を飲み込んで覚悟を決める。


「川が笑ってたのさ」

「川が?」

「そう、踊りましょ?ってな

だから一緒に踊ってやりたくなって

飛び込んだんだ」

「ふーん…」


クイーンバレルは目を細めてじっと見つめる

「…?どうしたんだよ?」

「川に嫉妬しちゃいました」

「はぁ…」




切り抜けれた…かな…?


なんとも言えない微妙な空気に

戸惑いながらも

その不安はすぐに掻き消される。


「囚人番号7 面会だ」

「…俺に?」


考える時間もなく事件が起こるのが

アンダーシティというものだからだ。




「直ちに貴方には街に出てもらう

必要が出来ました

当然何をしても外出許可はでませんので

3日以内に脱獄してください」


「脱獄?まだ1日しか経ってないだろ?

もう少しゆっくりしたいね」


医者風の男からそう聞かされ

僕はもう少し居たいと抵抗する。

まだ見学や本も読み終わってないのに

急かされるのは困る


「というか良いのかい?

そこの看守さん聞いてるけど?」


「彼はこちら側の人間ですので

問題はありません」


「流石悪党は手回しが早いね…で

どうして俺が外に出る必要があるんだ?」


「先日の大規模な銀行強盗計画の

主要リーダーを覚えてますか?」


「ああ、戦闘に長けた脳筋集団バーサーカーズの怪熊ストロングベアーと


ニンジャ集団 紅華団の頭領輝夜だろ?


で、まさにマフィアですって面の

奴らが集まる ブラッドファミリーの

ボス スカーフェイス


後は変な宗教団体みたいな服着た

聖モリソン騎士団の教祖

セイント・ラングレー


そして名もなきただの寄せ集めの

犯罪集団「joker」のボス

俺だろ?」


「そうです。 アンダーシティの

ヴィラン勢力図はその5つの組で

成り立っています。


ですが今回実際に動いたのは

貴方とストロングベアーと

セイントラングレーだけでした。」



「ドタキャンしたわけね

輝夜とスカーフェイスは…。


…狙いは…他のボスが居ないうちに

アンダーシティの勢力図の塗り替えか」



「そういう事になります。

ですが、この2組は最初から手を組んでいた訳では無かったので現在抗争中です。


この街の上層部はヴィラン同士の潰しあいは

上級市民に影響がないか

金を積まれない限り見て見ぬ振りですので

余計に火の手が早い」


「でもよ、俺が脱獄したところで

何かが変わるか?俺は切り裂きジャックとは言われちゃいるが、計画された暴動の火は

切り裂けねえぞ?」


「そこは貴方のやり方で

消していただければ」


「なげやりだねぇ〜…」


「私は伝言を頼まれてきた

ただの医者ですしね」


「誰からだ?」

「貴方の部下ですよ、足を失った」

「アイツか…」

昨日の部下が

何とか逃げ切り一命は取り留めていた事を

知って少し安心する。


「アンダーシティのボスヴィランは

貴方しかいないと言ってました。

余程尊敬されていますね?」



すごいのは僕じゃなくてジャックなのだ

と謙遜するが

昨日僕は誰かを殺そうとする代わりに

誰かを救っていたのだと思うと


あの行為を正当化してしまう

自分がいる。


ジャックだから人殺しをする覚悟を

決めていたはずが


ジャックのせいにして

本当は誰かを撃ちたかったのかも

しれないと…



…また深く考え込んでしまう。

この癖はとても良くない。


「とにかく3日以内に脱獄していただき

あの二グループの抗争が決着する前に

抗争自体を無くすのが今回の目的ですね」


「脱獄して世界平和を語れってか

それより二つの抗争を激化させて潰しあわせてから奪うってのもアリだな」


「まあ、そこはご自由に」


医者風の男は要件を終わらせたら

そそくさと出て行く。


「さて…と…」

僕は椅子に腰掛けてゆらゆらと揺らし

考え込む




考えて考えた果てに出した答えは






3日以内に脱獄の時点で

めちゃくちゃ難易度高いのに

戦争まで止めろなんて

ちょっと無理ゲー過ぎないですかねえ…?





…とりあえず脱獄計画を考える前に

読み終わってない漫画読まなきゃ。

けしてこれは現実逃避ではない。












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