第6話ぎんこうごうとう!
「俺は切り裂きジャック
さあ、切り刻まれるのは誰だ?」
鏡の中の自分に自己暗示をかける
三面にわかれた全身鏡の前に立ち
ジャックの衣装を着て
ナイフを取り出しやすいポシェットに詰め
足にはガンベルトを巻き
グラップリングガン
(銃の形をした高い場所に登るための
ワイヤー式フックショット)
を右にしまい
ナイフが飛び出す改造銃を左にしまう。
準備は完璧だ、何も問題はない。
今夜僕は、ジャックはいつも通り
人を殺すのだ。
深夜2時
アンダーシティの西にある
小さなグリン銀行から
北に3キロ離れた場所に囮部隊の
黒いトラックが向かっていた。
僕らはグリン銀行の隣にある
あらかじめ借りておいたビルの屋上で
合図を待つ。
「時間です、準備はいいですか?みなさん」
いつもはメイド服のクイーンバレルちゃんも
戦闘服に着替え顔にはお面をつけている。
とはいえ少しメイド風のデザインが
残っているのがたまらない。
あんなにも可愛いくてバイクを爆走させる
カッコよくて強いメイドなんて
全ての夢が詰まってる。
「はいクイーンバレル様」と
突撃部隊の部下2人は敬礼する。
指揮は部下の指揮能力値も高い
クイーンバレルちゃんに任せて
僕は邪魔する全てを笑いながら殲滅する係。
難易度が高い。
使い方や戦い方の知識を知っているからと言って戦えるとは限らないのは
嫌ほどわかっているつもりだ。
スポーツとかスポーツとかスポーツとか!!
だがやるしかない。
一人で夜風に当たりながら
標的の銀行を見下ろすと
クイーンバレルちゃんが僕の隣に立つ。
「ボスちゃん 今日元気ないね?
どうしたの?」
心配そうに僕の顔を覗く。
僕の変化に少し気づいて心配してくれているんだ。本当に凄い人だクイーンバレルちゃんは。
でも言える筈がない。
君の愛する人は殺されてしまって
僕は人を殺した事がない
臆病者の一般人だって
ジャックが居なくなった世界の
クイーンバレルちゃんなんて辛すぎる。
彼女はヴィランだけど、泣いて欲しくない。
ドォオンッ!!!!
静かな夜のアンダーシティを
灯す赤い光と爆発音が響き渡る。
ダイナマイトを乗せた陽動部隊の
黒いトラックが政府の役人がいる家に
突っ込んだのだ。
路地裏が燃えても警察は来ないが
偉い人がいる場所が燃えれば
早急に警察は集まる。
アンダーシティジョークだ。
「合図です、行きましょボスちゃん」と
クイーンバレルちゃんは銀行の屋上にワイヤーを撃ち込み 滑車をつける。
所謂ジップラインだ、物凄くたかーいとこ
からの…
その姿をみて僕は冷静になる。
銀行は2階だがビルは5階
これを滑れという感じですか。
落ちたら即死では死ねないだろう。
最低足が折れる。生々しい高さなのが
余計に怖い。
人殺しで悩む前に詰みそうだが
そんなジャックは解釈違いの為
覚悟を決め右手を添えると
クイーンバレルちゃんはベルトを渡してきた
「安全ベルトつけますか?ボスちゃん」
安全ベルトつけれるんですか!?!?!?
つけたいです!!!危ないの怖いもん!!!
鉄棒の高さですら無理なんだから
こんなんつけたいでしょ!!!!!!
だけど!安全ベルト付けるジャックなんて
みたくない!!!!!
だから拒否する!!!!!
「ハッ!俺が安全なんて求めてると思うか?
命懸けじゃねーとイケねーだろーが」
「申し訳ありませんボスちゃんの思考の理解が追い付かない私をお許しください
私も外シマス(早口)」
クイーンバレルちゃんはつけて!!!!!
「お前が死んだら奴隷が減るんだよ
俺に無駄働きさせるな、
つけろよ、安全ベルト」
「ボスちゃん…♡」
よしっ乗りきった!この勢いで行け!僕!
右手で滑車のグリップ部分を掴み5階から
落ちるように 命綱無しのジップラインが今
下を見るな下を見るな下を見るな下を見るな下を見るな
だけどそんなジャックは解釈違いだ!!
「ヒギャアアアアアアアアアッハアアアアッ!ハハハハハハハハハハ!!ハヒハッ!」
思った以上に高過ぎて全身が震え
恐怖のあまり笑ってしまう
「すげえ!流石ジャックさん!!
命綱無しで滑って笑ってるぜ!?
まじ狂ってるわ!!」
銀行の屋上にたどり着いても
膝も僕も笑ってしまって立てずに
仰向けに転がり笑う。
「すげえ…ジャックさんすげえ…よ!!」
部下は僕の悲鳴を喜んでると
とってくれたようだ。
こっそり練習しなきゃな…ジップライン…
屋上に上がればついに金庫に向かう
誰にも会わず殺さずに
無事終わる事望むなんて解釈違いだが
ジャックの心を作者は描写しなかった。
だから祈りくらいはいいだろう。
ジャックが考えていたことは謎なのだ
永久に。
銀行の中に入る。アンダーシティの銀行は
まるでお城のようなデザインだ
ステンドグラスが敷き詰められたり
机も日本とは違う。
美術品を見学するように見上げつつ
奥の金庫室に進む
金庫を開ける為のハッキングを
クイーンバレルちゃんが進める
その間に僕は鞄から粘着爆弾を取り出す
ゲームとかでしかみた事がない。
金庫が開いて さあお金!というわけではなく
金庫の扉を開けると簡単には開かない柵があらわれ そこに粘着爆弾を取り付けて
爆風がこないように金庫を軽く閉めて
みんなで離れる。
まるでコンビニで買った花火を
あげてるような気分。
銀行強盗とか言うから人質をとったり
殺したりするのかと思ってたけど
これなら誰も死なないし泥棒でしかないから
楽しくていい。
もう既に感覚がヴィランになりつつ
あるのかも知れない。
「3!」とクイーンバレルちゃんが
カウントダウンの合図をする
「2!」部下達も楽しそうにピースをとる
だから僕も笑顔で決めポーズ!
「1!BOOM!」
金庫の中の柵が破壊される
警報がなる。今からが時間との勝負だ。
部下は金庫前で待機して
僕達は中にある金を取りに行く。
そこにあるのは札束の山
金金金金見渡す限りの金だ。
今の僕じゃ絶対に稼げない金額
一体どれくらいの漫画が買えるんだろう…?
と放心してると顔に鞄がぶつかる
「いだっ!」
「ごめんなさい!ボスちゃん
そのバッグボスちゃんの分です!
同時に金庫破りが起きているとは言え
ヒーロー達は侮れません!早く詰めましょう!」
まるで机の上にある皿を片付けるように金をバッグに掻っ込むクイーンバレルちゃん。
僕も沢山のお金をバッグに詰める。
いい紙の匂いがする。
漫画の新刊も匂いが好きだ。
本も金も匂いがある。
だからもっと好きなのかもしれない
犯罪をしているのは間違いないのに
凄く、凄くいい気分だった。
バァン!
その時大きな銃声がなった。
この音は仲間が持ってるライフルの音じゃない。ショットガンの音だ。
「クソ野郎ども!全員ミンチにしてやる!」
「足が!足があっ!!」
仲間の一人の叫び声があがる
どうやら足を警備員に撃たれたらしい
ヒーローは銃を使わない。
僕は仲間が待つ金庫の外に向かって走る
助けるわけではないが
ジャックというヴィランは
敵を見つけたら金よりも必ず殺しを
優先する男だ。
だから助けに向かっても問題はない。
問題はないのだが…
ショットガンにナイフで対抗って
頭イカれてるでしょ!このキャラ!!!
実際やるとなると無茶が過ぎる!
ノー命綱ジップラインも頭がおかしいが
ショットガンにナイフはマジでない
対抗出来るとしたら
右にあるグラップリングガンと
左にある弾ではなくナイフが飛び出す
改造銃だが 殺傷力は低い
グラップリングガンで
爪の部分を相手のショットガンに
引っかければ武器を奪えるが
正直僕はエイム力に自信はない。
警備員は足を撃った部下を盾にしながら
金庫側にショットガンを向ける
「早く出てこいゴミ野郎ども!!」
「クソっ!!」
完全に今出れば蜂の巣だし
仲間を盾にされた状態では殺せない。
だけどこのまま時間を稼がれれば
ヒーロー達がやってくる。
誰でも出来る攻撃で仲間を死なせずに
隙を作らなくてはいけない。
誰でも出来る何かで。
「タマの小せえヴィランだな!?どいつだ?
顔を見せやがれ!!それとも怖くてチビってんのかクソ野郎!」
そう叫ぶ警備員の足元に何かが投げられる。
札束だ。
警備員はちらりと札束をみる。
人は大金をみるとどうしても気になって
しまうものだ。
その隙をついて僕は
ジッパーが開いたままのバックに入った金を
警備員の頭上に放り投げる。
札束の雨!!
警備員の顔に札束が落ち
視界が悪くなる。
警備員が舞い落ちてくる札束を振り払うと
仲間は拘束がはずれ床に転がる。
その隙をついて僕は走り出し
右手に持ってたグラップリングガンで
警備員の顎を思いっきり殴る!
ガヅンッ!と鈍い音がした
人など一度も殴ったことはなかったのに
警備員は倒れ
すぐさまショットガンを奪う。
僕は人を殴った。 仲間を助けるために。
だがそんなジャックは解釈違いなので
部下に足を撃たれた部下を背負わせる。
助けた理由は
「部下を雇うのは面倒くさいから」にした。
正門は警備員が待機しているため
みんなで屋上に向かい
そこから荷台にマットを敷いた
仲間のトラックが見える
あと20秒もすればこちらに到着するだろう。
だが
ガンガンッ!と他の警備員が
屋上の扉を蹴り破ろうとしてくる。
次は大勢だ。
「早く早く来て!」とクイーンバレルちゃんはライトで合図をする。
だが扉を破る方が早い。
僕は今ショットガンを持っている。
安全装置は外されている。
いつでも撃てる状態だ。
選択肢はなかった。
僕はショットガンを構える。
仲間を助けて勢いに任せて人を殴った時とは違う。今から人を殺すという静かな殺意。
扉を壊し屋上に警備員達が現れるが
既に彼らに焦点を合わせている僕をみて
恐怖する。
時間がゆっくりと感じる。
僕は引き金を引き覚悟を決める。
僕はジャック。 ヴィランだ。
大きな銃声がアンダーシティに響き渡る。
だが既に街は混沌と化していて
そんな音は雑音の中の一つの音色にしか過ぎない。
僕はどこかで望んでいたのかもしれない。
彼が来る事を。
銃弾は警備員を外れた。
いや、外されたのだ。
「観念しろ、ジャック」
ツノを持ち鎧のような
黒いスーツに身を固めたヒーローに
「オーガマン…!!」
オーガマンは簡単に僕からショットガンを
奪い取り捨てる。
「ボスちゃん!今です!」
クイーンバレルちゃんがトラックが
来たことを叫び飛ぶ
僕は後退しつつ
左手でナイフを全て取り出して投げる
エイムがクソでも視界が悪くなるほど
飛ばせばいい。
僕はそれに夢中で 気づいたら屋上から
仰向けに落ちていた。
怖いはずなのに僕の目は
オーガマンに釘付けだ。
落ちてきた僕をクイーンバレルちゃんが
お姫様抱っこで受け止め
トラックは走り出す。
これで終わりじゃない。
それは僕が一番知っている。
オーガマンは何も発さず
僕らが乗ったトラックを見つめると
ズンズンっと床を踏みしめ
走り幅跳びのように跳んでくる。
その姿はまるで鬼。
ヴィランだと言われても
誰もが信じるだろう。
オーガマンはトラックの荷台に飛び乗るが
降りてくる瞬間を狙い
クイーンバレルちゃんはライフルをお見舞いする。
「クソっ!全然効かない!化け物ヒーローめ!」
漫画を読んでいる僕は実際はある程度効いているのがわかる。あれは我慢しているのだ。
部下の1人が殴られ気絶する。
オーガマンは歯向かうなら結構女子供にも
容赦なくボコる鬼だ。
矛先がクイーンバレルちゃんに向かった。
ライフルを構えるまえにオーガマンに弾かれる。
クイーンバレルちゃんが殴られる瞬間に
僕はナイフをオーガマンの腕に刺しこむが
そのまま裏拳を食らわされトラックの壁に
身体がぶつかる。ぐらぐらと視界が揺らぎ
痛みが後からやってくる。
ヴィランが犯罪をして
ヒーローがやってきてやっつけられ捕まる。
お決まりのパターンだ。
ここで終わった方が綺麗っちゃ綺麗だと思い
目を閉じそうになるが
「オーーガっアッ!!こっちをみなよ!!」
とクイーンバレルちゃんが笑顔で叫び
オーガマンも僕も彼女を見る。
トラックは大橋を渡り下には深い川が流れる。
彼女はトラックを橋の隅に寄せて川を背に
手を広げて笑っている。
「あんた不殺のヒーローなんでしょ!
私を見捨てれる?これでも??」
この高さでは落ちればただではすまない。
だがクイーンバレルちゃんは綺麗に目を瞑って橋から落ちていく。
僕は察した。僕を逃がすために川に飛び込み自殺し時間稼ぎをする気だ。
オーガマンの不殺の精神を利用して。
オーガマンはクイーンバレルに手を伸ばす。
ジャックならここはオーガマンに
任せるだろう。
彼はオーガマンの信念を信じているから
だけど気づいたら僕は
クイーンバレルちゃんの手を握っていた。
要するに
一緒に落ちてしまっていたのだ。
「ボス…ちゃん…??」
クイーンバレルちゃんは混乱している
当たり前だ、僕もこんなジャック解釈違いだ
どうしてかわからない。
わからないまま僕らは川に落ちた。
沈む。沈む。
よく考えたら僕は金槌だった。
水が肺の中に入ってくる。
そこからはあまり覚えてないが
唇に何か柔らかいものが当たった感触と
上から鬼が僕らに手を伸ばしたところだけは
記憶している。
次の日
アンダーシティ刑務所
「食事!はじめ!」
看守の合図に昼食が始まる。
臭くてまずい飯。
これが代償かと思う。
あのコックさんの料理がまた食べたい。
「ハァイボスちゃん♡あーん♡」
「こらー!!クイーンバレル!おまえ
どこから湧いて出た!女子房に戻れ!」
クイーンバレルちゃんから
あーんしてもらいながら
僕は考えていた
「脱獄…しなきゃな」
だけど困った事がある。
ジャックなら脱獄した方がジャックらしいのだが、みんなジャックを恐れて近づかない分
本とか読み放題なのである。
正直監獄天国
ちょっと縛りがある分無料の
食事付きの漫画喫茶だ。
「脱獄しなきゃなぁ……」
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