第5話はじめてのはんざい
軽くバターを塗ったトーストを
こんがり焼いてカリカリベーコンに目玉焼きを乗せただけで超美味いのは異世界だろうがどこだろうが共通だ。
一流シェフにこんなに可愛いメイドさん
そしてテレビをつければ
ヒーローがどのヴィランをやっつけただの
ヴィランがどんな犯罪をしたのかとか
と24時間ニチアサ状態。
幸せだ…。永遠に住んでいたい…。
目玉焼きベーコントーストを
はぐはぐと食らいつきながら
僕はこの幸福感を噛み締めていた。
「ボスちゃん おみかんですよ あーん」
クイーンバレルちゃんが今日も
餌付けをしてくる。かわいい
あーんさせたい、クイーンバレルちゃんの
子供になる…
という気持ちを抑えつつ無表情で口を開ける。
みかんを食べさせると満足したのか
クイーンバレルちゃんは
筒状に丸められた紙を机に置き広げる。
そこには
「02:30:ST」と書かれた文字があった。
「というわけでボスちゃん、深夜の2時半に
大規模銀行強盗計画スタートですから
学校から帰ったら装備の準備しておいてくださいね、私も準備してまいります」
「ほえ?」
クイーンバレルは頭を下げて扉の向こうに
行ってしまい 部屋には無口なシェフと
僕だけになってしまった。
数秒の沈黙が流れ
当たり前の事を察した。
ヴィランは犯罪をするからヴィランなのだ
生まれてこのかた
万引きどころかアリを殺したこともない
僕に銀行強盗、飛躍しすぎだ。
正直ヒーローに殴られるのはいい
推しに殴られるなんてご褒美でしかないから
だけど異世界だからといって切り裂きジャックだからといって自分は自分だ、
人が苦しむ犯罪が出来るのか?
罪もない誰かを殺せるのか?
だけど出来なければジャックとして
生きることは出来ない。
答えは出ていても踏み出せない。
「……」
「ん…??…学校?」
あまりにも大きい案件だったため
忘れていた。
ジャックは16歳。
変装をしてエースという名で
アンダーシティにある有名校
アンダーアカデミーに通っていたのだ。
学校生活があるんだ。異世界でも!
ジャック大変だな…
遅刻しないように服に着替えて
髪型をくしゃくしゃにパーマをかけて
大きな黒縁眼鏡をつける。
少し猫背にしてメイクで隈をつくる
弱そうな犯罪とは無縁な姿。
なのにエースという名前負けしてるのが
ジョークらしい。
アンダーアカデミー
アンダーシティのど真ん中にそびえる
大きな教会のようなデザインの学校
クラスは大きく分けると二つあり
異能力があるヒーロー課
そして異能力がない一般課だ。
ヒーロー課なんて大袈裟に言っているが
要するに危険だから追いやられてるに
過ぎない。
ヒーロー課には昨日見かけた
ストーンシールド以外にも沢山のヒーローがいる。 もちろんオーガマンも。
異能力を持ってしまった人達は
監視される場所に配属され
自分達は犯罪者にはならないと
ヒーロー活動をしヴィランを
やっつけなければいけないのだ。
中ではそのストレスからか
ヴィラン堕ちするヒーローも現れる
電光石火のライトニングがまさにそれ。
悲しいけどドラマチックで好きだ。
門をくぐるだけでワクワクする。
地元の学校じゃそうはいかない
一応イギリスをモチーフにしているので
16歳で義務教育は終了していて
異能力者はヒーロー課へ
一般課は進学か、就職か、
はたまたフリーターか決めれてしまう。
ジャックならフリーターと言うより
フリーク一直線だと思ったのだが
進学していた。
あの展開を読んだときは結構驚いたものだ。
以外と安定志向なのか、いや、ただ
面白かっただけに過ぎないだろう。
教室に向かい席に座り講義を受ける。
この日は化学の授業で難易度が高く
正直メモを取るだけで精一杯だ。
ジャックになるには学力も必要だってことか
難易度がここでもあがった。
休憩時間になり
クイーンバレルからもらったお弁当を
誰もいない学校裏で食べる。
少し惨めな気がするがジャックはきっと
今晩の殺人について考えて
楽しかったに違いない。
ばしゃりと顔に水をかけられる
「あーゴメンゴメン名前負けのエース君
見えなかったよ 雑草にまぎれてて」
同じ一般課のいじめっ子ボトムだ
なんというかこの世界のいじめっ子パターンはものすごくシンプルで王道だったりする。
読むときには笑えたんだが、
正直今のでクイーンバレルちゃんから
もらったお弁当が濡れてしまった。
僕の殺しの一線はここで越えるべきでは
ないかと悩ませる。
だけど設定にはエースの時
ジャックは他人を殺さない。
ここでやり返したシーンを見たことがない。
だからって推しでもないキャラに
殴られるのは不快だ。
そんなこんな考えてると
ボトムの大きな拳が僕に向かってとんできて
咄嗟に目を瞑ってしまった。
「!!」
「…?」
だけどいつまでたっても痛みを
感じなかった。
目をゆっくりと開くと僕の前には
彼がいた。
大きなツノを生やし鋭い瞳を持った。
そう オーガマンが。
「…」
何も言わずにボトムの拳を握るオーガマン。
ボトムはオーガマンの握力に負けて
苦悶の表情があらわれやがて逃げ出す。
オーガマンの肉体は人間の姿に戻っていき
男らしい太い眉毛の美青年になる。
「怪我はないか」
「は、はいありがとうございます
オーガマ…ダニエルくん」
そう返すと彼は
「別にどっちでもいいよ、じゃあ」
と大した世間話もせずに去っていく。
ヒーローは意味もなく助けてくれる。
今の僕も助けた一万人のうちの一人でしか
ないのだろう。
だけど助けられた側からすれば
たった一人のヒーローなのだ。
ジャックはダニエルが
オーガマンだったと知ってた筈だ。
知ってて彼はオーガマンを
苦しめていたのだ。
フリだけをする僕には本心はわからない。
だけどきっと彼は今夜の銀行強盗も
嗅ぎつけてくるだろう。
僕の知ってるオーガマンとは
そういうヒーローだから。
なら僕は彼を迎えなきゃいけない
笑って、ジャックとして犯罪者として。
人殺しにビビるヴィランなんて
存在しない。
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