第4話:ゲーム画面から出て来た女の子が期待と違った話(中編)

「もう1回言ってくれ」

「だから、コージにこの子がどのゲームから出てきたのか教えて欲しいんだ。それが分かれば元の世界に返したり、意志疎通する方法も分かるかもしれないじゃない」

 めんどくさそうな様子1つ見せずに穏和な笑みで説明を繰り返してくれたが、俺としてはなんら疑問が解決していない。

「お前らが遊んでいたゲームだろ? なんで俺に聞くんだよ」

「そっから?」

 またショウジがキレそうな目でこっちをにらんでくる。だからなんで俺がそんな目で見られなきゃいけないんだよ。

「それは僕もアキラもショウジも何のゲームを遊んでたのか思い出せないからなんだよ。もうさっぱり」

「は?」

「ああ、うん、そういう反応するだろうなとは思ってた。自分たちでもおかしいとは思ってる。だけど本当なんだ。直前まで遊んでいたはずのゲームなのにね。うん。もう綺麗さっぱり思い出せない」

 それだけではなく、ゲーム機のふたを開けたら中が空っぽ。部屋のどこかにあるはずの空のケースも見つからずじまい。

 アキラとショウジとコータローの3人で話し合った結果、どうやら室内と脳内からそのゲームに関する情報がすっぽりと抜け落ちてしまっているという結論に至ったらしい。

「そんなわけでそのとき場にいなかったコージならもしかして分かるかも、って思ったから来てもらった次第なんだよ」

 分かるような分からないような理屈だ。

「つーか、そもそも俺、お前らほどゲームに詳しくないんだけど」

「逆に言えば僕らの知らないゲームほど知ってるイメージなんだよね。僕らが思い出せないのが馴染みの薄かったゲームだったから、って可能性もあるし、僕らと全然違う視点を持った人ってコージくらいだから貴重なんだよね」

 それはお前らが妙に古くてマニアックなゲームばかり遊んでいるのが原因だと思うぞ。ああ、そういう意味では最近のゲームはこいつらより詳しいかもしれない。

「うーん、でも西洋風の女の子なんて下手したら出てこないゲームのほうが少ないんじゃないか? もうちょっとヒント、つうか情報が欲しいな」

 今もショウジの手を握ったままの少女を見やる。特に表情らしきものは浮かんでいないが、感情がないというより何の不安も感じていないようにも見える。

「知らねえのかよ」

 呆れたようにそう俺に向けられたショウジの言葉は、珍しくほんの少し申し訳なさげな響きを伴っていた。どうやらてっきりすでに状況を聞いているものと思っていたらしい。

「さっき会ってそのまま来てもらったからね。だからショウジから聞いた話もまだ伝えてないよ。どうする? 自分で話す? それとも僕から話そうか」

 コージと2人きりのときだけ饒舌になるというショウジから、コージはすでに大体の事情を聞いているらしい。それで俺にすでに説明済みだと思っていたのか。

 当然のように自分で説明するつもりのないショウジは黙って肩をすくめ、コージが端正な顔で困ったように首をかしげる。

「じゃあ、僕から話すよ。間違いがあったら言ってね」


 コータローがショウジから聞いたという説明は、たまにはいるショウジによる補足(というかボヤキ)を含めて大体30分ほどかかった。

 そのあいだ、少女は口一つ挟まずに黙って立っていた。

 話が終わったときの俺のショウジに向かって発した最初の言葉は「この子が?」だった。


「そうだよ」

「駅のホームからホームへ助走なしで飛び移った? 線路を飛び越えて?」

「ギリギリな」

「駅ではぐれて、気がついたら反対側のホームに立ってて」

「そう」

「手を振って呼んだら跳んだ?」

「そう」

 迷わずにな、と付け加えてショウジは苦虫をかみつぶしたような顔で少女を見上げた。

 助走も無しに跳んだ彼女は駅のホームの端にギリギリ手をかけてぶら下がりそのまま上ってきたらしい。誰かが駅員を呼ぶ前に電車に乗って立ち去ったそうだが、もしかしたら誰かがネットに動画でも上げてるかもしれない。しかし本当にこの穏やかそのものな子がそんな無茶をしたんだろうか。俺はショウジとはまた違って目つきでじろじろと見てしまう。

 もっとも相手はそんな僕らの表情を意に介する様子もなく、柔らかいまなざしで見つめ返した。

 俺は居心地悪さに目線を外し、誤魔化すように呟いた。

「すごい身体能力だよね。そんなことしてるのに全然疲れないみたいだし」

「寝ねえしな」

 ぼんやりと立ったままの少女を見る。俺がここに来てからずっと立ちっぱなしだが疲れた様子はない。

「ああ、でも家で少しだけ休んだんだっけ」

「らしいね。なぜか家の2人がけのソファにだけは腰を下ろしたんだよね」

 ただ休んでいたのはショウジが座っているときだけで、ショウジが立ち上がると必ず一緒に腰を上げたらしい。

「どうかな。何か思い出した?」

「いや、うーん」

 女性だったら一発で落ちそうな柔和な笑みを浮かべながら俺にそう聞いてきたコージに、俺はいまいち煮え切らない言葉を返した。

「実は関係あるかは分かんねえけど、心当たりはあるんだよな」

 ただ問題はそれがゲームではないということだった。

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ゲームの操作説明より大事なこと ギア @re-giant

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