裁判開始

 メガネの11番はスマホを取り出して待ち受けを表示させると時刻を確認した。

「指定時刻から5分が過ぎたね」

 あれから4人が新たにやってきて、11人になっていた。カードは12番まであるようだったので、1人来ていない。ぐるっと見渡せば明瞭だ。12番の席が空いている。

「12番のカードが残ってるみたいだったけど」

 一番最後にやってきた3番の女子がいった。やたらと短いスカートをはいていると、チラ見していたら、その下にはショートパンツをはいていた。目が合うと、残念ねとでもいいたそうに唇の端をつり上げた。


「そっか。とりあえず見てくる」

 11番は席を立つと小走りで診察室へと向かった。呼びつけた人間が不在なのが不満だが、仕切ってくれるヤツがいてありがたい。ここにいる全員が知らない者同士で、なにをどうしていいかもわからずぐだぐだと時間だけが過ぎていくのは勘弁してほしかった。誰も何の発言もしないまま11番はカードを持ってすぐに帰ってきた。

「やっぱり12番だね」

 席に戻ってほかのヤツらに番号の書かれたカードを見せる。オレの方からは番号の裏のイラスト面が見えた。その絵にひやりとする。


 男が逆さまになって木に吊られていた。片方の足だけをロープにくくられて。

 アイツも首を吊って自殺を図ったと聞いている。

 12番目の人物とはアイツなのだろうか。

 オレはもう一度自分のカードを見てみるが、なにを暗示しているのかまったくわからなかった。12番のカードと見比べる。12番の上部には『XII』とローマ数字が記されていた。よく見ると自分のカードの上部にはアルファベットの「o」かアラビア数字の「0」のような文字がある。10を意味するのかはわからない。


「ねぇ。このカードってさ」

 8番の女子がいった。

「タロットカードだよね」

 みんなは自分のカードを見た。反応が薄い。ほかに知っているヤツはいないようだ。

「12番のカードを見せて」

 8番がいうと11番は絵の描いてある方を表にして中央に置かれたテーブルに載せた。みながのぞき込む。息をのむ声が聞こえた。


 やっぱり。みんな知らないわけじゃないんだ。ここにいるメンツはみなオレと同じくらいの中学生に見えた。アイツと何らかの関わりを持っているのだろう。そしてアイツなりの抽出方法で11人をここに呼び出した。

 それにしたって、みながみなとも初対面って。ある意味すごい。オレには学校以外の友達なんてそうそういないというのに、アイツはオレよりも遙かに広い人脈を持っていたにもかかわらず、閉じられた世界に籠もり自らの命を絶つことを選択してしまった。

 それともアイツが自殺した理由って、もっと深い意味があったのだろうか。


「なぁ、ひょっとして、12番って……」

 6番の男子が言いよどんだ。その先は口にしなくてもみんな気がついていた。

「来るのかな」

「監視カメラがあるとか」

「いやなかんじ」

「だいたい、なんのための会なの」

 みんなが口々に言い放つ。

「なんのためって、みんなわかってきてるんでしょ」

 6番が強い口調で言った。

「どうしてこんなことになったのか。もし、その原因が自分にあるのだとしたら……」


「ちょっと待って」

 3番が口を挟む。

「わたしはそうは思ってないよ。全然わからない。だから来たの。わたしは学校は違うけど、幼なじみなんだ。道路を挟んだ向かいのうちで、だから学区が違っちゃってんだけど、声をかければ話しくらいするし、何でこんなことになったのか、全然わかんない。自分が陪審員になって原因をつくった人を責め立てようってつもりじゃないけど、でも、ひとこといってやりたくて」


「だよね。あたしも驚いた」

 言い添えたのは1番の女子だ。パーマをかけたのかというくらいきれいなウェーブにメイクまでしたおしゃれな女子だ。

「詳しいことよくわかんないけど。お母さん同士が高校時代からの友達でさ。あたしも会ったことがあるの。同い年の男の子でっていわれたら、ちょっぴり期待しちゃうじゃん? どんな子かなって。まぁ、若干期待外れな感があったけど、自殺未遂したって聞いたらやっぱビビるじゃん。なんなのかわかんなくて来ちゃった」


「思ったんだけど」

 11番はやけに冷静に発した。

「みんな陪審員? 被告はいないの?」

 7番が答えた。

「陪審員といったら12人だからね。でも日本の裁判員制度は、裁判員6人、裁判官が3人。被告人はひとりだっけ? まぁ、そもそも被告人がいないことには裁判なんて起こりえないんだけどさ」

 ちょっとふざけた調子で言うと6番はかぶりを振った。

「陪審員でもあり被告人でもあるのかも。手紙の内容からオレはそう受け取った。ちょっぴり心苦しさもあるから」

 6番は正直なヤツだ。後ろめたい心の内なんて、知らないヤツらとはいえ、オレにはいえそうにない。


「オレもさ、幼稚園が一緒だったから小さいころから知ってるんだよ。学校違ってもどこかで逢えたらいいねって、同じ部活に入ることにしたんだ。バドミントン部でさ、同じ市内だから何度か交流試合をやったことがあって。で、あるとき気がついたんだ。こいつ、部活でハブられてるんじゃね?って。だからいってやったんだ。お前、いじめられてるだろって。ちょっと上から目線だったかも。そんな一言で死を選ぶとかありえないともうけど、理由の一つとしてはありえるのかなって……」

「それはありえるよね」11番は同意した。「6番さんは気づいたけど、本人が気にしてるほどやった方は自覚がなかったりするし」


「ああ、あるよね。オレ、それやっちゃったんだよね」7番は頭をかきむしっていった。「とあるアイドルのファンでして。あ、とあるっていうのは言ってもみんな知らないだろうからいわないだけであって、別にいってもいいわけだけど。ま、どっちでもいいか。で、ヤツはさ、なんか恥ずかしがってて。学校じゃいえないってのもあったかもだけど、そもそもマイナーだからファンに遭遇するのも難しくて。それでネットで知り合ったんだけど。ライブに一緒に行って、おもいっきりヲタの格好のまま写真撮ってオレがアップしちゃったわけ。それを学校の友達が見つけたらしくて、からかわれたって怒られたんだよね。それがきっかけってのがあるのかな」


「重要な証言だね。ふたりの証言がひとつの方向に集約していってるよ」

 11番はみんなを見渡した。7番が問い返す。

「というと?」

「大きな原因は学校でのいじめにあるんじゃないの。不思議なんだけど、みんなここにいる人たちは面識ないよね。それぞれの場所で出会ってる。たださ、やっぱ一番長い時間を過ごしているのはクラスメイトじゃないかと思うんだけど、いないの? クラスメイトは?」

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