未定
明石 沙乃
無垢 飴
閉じた先にある瞼の裏は、温かな色だった。
存在そのものが吸い込まれるかのような日、そっと手を伸ばした先に触れたのはどこかで出会ったことのあるものだった。
静かにこの身を包むソレは、まるでベビーパウダーの香りをまとっている。ソレは、私が体の片隅に置き去りにしていた大切なものを遠慮がちに目の前に出してきた。
「もう時期、貴女様の之を奪う者が来るでしょう。その時はどうぞ、御守りください」そう聴こえた気がした。私が「ええ、そう致しましょう」とだけ答えるとソレはぺこりとしてから私の目をみて、不安げな表情を浮かべたまま消えっていった。ソレが何故あの顔をしたのか。大方、私の言葉に偽りがあったことを察してしまったからだろう。
「奪われたらまた作るまでのこと」今の私には何もかもが容易く思える。余裕綽々。危機が迫っているという自覚すら湧かないが故に、私はソレが置いていったものをまた元の場所に戻しに行くことに決めた。人目に触れていいものでもないのだから、わざわざここまで引っ張り出して傍に置いておく必要はないのだ。
面倒ながらもソレに手を掛け、腕に力を入れたがびくともしない。
余計なことをしてくれたな、ソレがしたことに対して腹立たしく思うと同時に違和感が手に残った。
私が初めて之を手にした日はもっと凛としていた上に、温もりがあったものだ。だが、今は前にもまして大きく、そしてゴツゴツとしている。そして、温もりは微かにしか感じられなくなっていたのだった。
未定 明石 沙乃 @yu02ta05
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