記録10

 VRBの手掛かりを見つけ出せないまま、かれこれひと月が経とうとしていた。もはや調査の気力も失って、VRBの為の調べものをする事が無くなっている。せっかくの休日だというのに、なんとも無気力だ。一旦VRBのことは頭の隅に置いて、かつての日課であったイラスト投稿サイト巡りでもしようか。そんな事を思い立ち、VRBにアクセスする。

 ヘッドセットを掛け、ブラウザにダイブ、眼前にホームが広がる。

 早速ブックマークを開き、投稿サイトであるpixeLを探す。ここ最近見ていなかったせいか、リストのだいぶ下に追いやられていた。ぼくは、一つのことに熱中するとその事ばかり調べてしまう癖がある。その事を悪いとは思わないが、やはり息抜き的なものは必要だ。今回もこれで息抜きすれば、また新たな手掛かりに辿り着く術が思いつくかもしれない。いい機会だろう。pixeLに辿り着くまでの間に、ボーッとそんな事を考えていた。

 pixeLエリアの前に辿り着く。ゲートでアクセスカードをスラッシュし、ログインする。ゲートがマイルームまでの道を開いた。巡る場所はもう決まっている。お気に入り登録絵師の新作ルーム。自分がお気に入り登録した絵師の新しい投稿順にひたすらに並べたルームだ。そこをぼんやりと眺めながら、気に入ったものをブックマーク。他の作品が見たくなれば、その絵師のルームに移動し、ほかの作品を見る。この絵師の事をもっと知りたければ、その絵師のブックマークルームを閲覧し、そこからさらに新しい絵師発掘する。それの繰り返しだ。ぶらぶらと様々なルームを巡りながら、多種多様なイラストに一喜一憂する。素晴らしいイラストを純粋に楽しむ自分と、それを描くことができないことを寂しく思う自分のせめぎ合いを感じながら、ぶらぶらと歩き回る。これがぼくのかつての日課だ。久し振りにこの感覚を思い出す。

 しばらく見ない内にだいぶ新規投稿がたまっている。若干どこまで見たのかが定かではなくなってきた頃、妙に好みなイラストに出会った。よし、今日はここから掘り進めていくことにしよう。

 そのイラストにアクセスし、そこに現れた扉を開き、その絵師のマイルームに移動した。そのほかのイラストも好みのものが多い。幾らか見て行くうちに、以前好みでキャプチャーしていた、イラストが並んでおり、あの頃から好みが変わっていないことを自覚した。

 そろそろこの絵師のブックマークから、新たなお気に入りを見つけ出すことにする。他人のブックマークというのは、面白い。自分の好みの作品を作る人なので、自分と同じ趣味のものもたくさんあるのだが、それと同じくらい自分の感性とは違うものが並んでいる。そこから自分の知らなかった趣向に気付かされることがよくある。さらにお気に入りが増えていく。

 どんどんと掘り進め、どんどんと収穫が増えていく。まるでダンジョンのようだな。そんな事を考えていると、不思議と目に留まる作品に出会った。デジタルノイズ的な世界のなかで、近未来風のコスチュームに身を包んだ少女が拡張現実のインターフェースに手をかざしているイラストだ。だいぶ前に投稿されたイラストのようだが、どこかでこのイラストを見たのだろうか。なんとも言えない気持ちになる。自分の好みとも少し違うタイプの作品ではあったものの、この感情の答えはなんなのか、その事を突き止める意味も込めてとりあえずこのイラストをキャプチャーする。

 だいぶ長いことイラスト散策に精を出してしまったらしい。ヘッドセットを外したときには、すっかり日は落ちていた。知らぬ間に酷使していた眼球を瞼の上からグニグニと揉みほぐしていると、階下からから母親の声が聞こえる。

「ごはんよ〜!」

もうそんな時間か。ヘッドセットをいつもの定位置に戻し、PCの電源を落とす。

「ごはんって言ってるでしょ〜!冷めちゃうから早く降りてきなさい!」

わかってますよ。何度もうるさいな。

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