記録7
あの日ミアハに会って以来、ほぼ毎日このスレを覗いている。今日でちょうど3日目だ。3日とも時間は違えど、ミアハはそこに居た。うち2日でそれぞれ、別のアバター持ちがいた。
ミアハが話していた、このスレ参加者のアバター持ち3人衆の2人である。
1人はガタイのいい男らしいアバターだった。服装は、番長的な学ランの上に、アシンメトリックに西洋甲冑を着流している。これまた特異なものだ。ミアハとの共通点を感じる。
「まあ、大したことはしてないが、よろしく頼む」
「なんだよ、覇気がないなー。ゴトーはモデラーなんだよね。つまりこのアバター衣装を作った1人ってことです」
1人はミアハとは別ベクトルの、グラマラスで大人の女性といったアバターだった。服装は胸元を強調するように襟元から大きく開いたワイシャツ、ぴっちりとしたミニスカート、それら全体を覆う様な白衣から覗く甲冑状の鋼鉄のブーツ、袖から覗くガントレット。こちらもミアハと同じ系譜だ。
「エリザでーす。よろしくねー」
「エリザは、うちのサークルの会計係?みたいな感じかな」
「そうそう、だからあんまこのスレッド自体には興味ないでーす」
どうやらサークル繋がりでここにダベりに来ているだけらしい。
つまり、皆ミアハが在籍しているサークルのメンバーだというのが基本であり、サークルメンバーの1人(おそらくミアハ)が、この噂に興味を持ち、他のメンバーを引き入れているという状況なようだ。このコミュニティのベースは、このサークルなのだ。
「なんか思ったより、そのサークルのスレッドみたいになってない? 僕みたいな部外者が入ってしまっていいのか……」
素直な感想が溢れる。
「あ! ごめんそんなつもりはないんだ! たまたまだから! アバター持ちじゃないけど他にも常連さんもいます!」
こちらの引っ込みな反応に、妙に慌てるミアハ。逆に申し訳なくなる。たしかにアバター持ちでないユーザーにも何人か遭遇した。
「お、同志キタ!」
「よろしくー」
「おー、久しぶりの新顔!」
「アバター持ちとか物好きですね」
名前だけはある、名前すらないなどの違いはあれど、アバターは一様に簡略化された人型のモデルだ。これがゲスト用のアバターである。ブラウザで見る分には、俺たちも名無し達も大差ない見た目に見えていることだろう。ただVRB上ではなんとも奇妙に映る。
こんな環境に数日通って分かったことは、なにも分かっていないこと。ライブラリに丁寧にされている情報の九割は、各々の想像、関係してそうだが直接の関係がわからない為にどうしようもない情報ばかりだ。
「いやーばれちゃった? でもその辺しっかりしてると、こんな胡散臭い内容のスレでも、信憑性出てくるでしょ?」
なんと身も蓋もない言い方するのか。
「どんな真実でも、マイノリティな時はやっぱり胡散臭いものなんだよ。人が増えるだけで、それが人を呼ぶからね。人が増えればそれだけ真実に近づけると思うんだ」
それも一つの真実だろう。ただ人が増える程、余計な情報も増える。それを良しとするか。一長一短ではあると思う。
「少ないより一旦マシだよ。荒れてきたら、私たちだけでまたスレでも立てればいいよ」
そういってミアハは笑った。
そんな情報が整理され並んだライブラリで最も注目すべき情報とされているのが、裏ネット情報の最古のものとされている目撃情報である。それによれば、最古の確認はVRBのサービスが開始される四年も前の事である。日本で最も大きな掲示板サイトであるところの2ちゃんねるでこんなスレッドがたった。
「かっこいいウェブサイト教えてくれ」
特に珍しくもない、同一スレッドが乱立するような、なんてことのないスレッドだ。そこで数々のサイトが羅列され、評価される中で突如貼り付けられたそのとあるサイトは異彩を放っていたらしい。そこに貼られたサイトはもうすでにリンクがきれていたため、確認する術はないが、その後に続くコメントをみるに、皆困惑し、やがて興奮していくようなコメントが残っている。
コメントを総括するに、どうやらそれは様々なサイトらしきものがグチャグチャにバグって混ざった様なサイトらしい。何についてのサイトなのか、何処をクリックすればいいのかもわからない。ただのバグサイトあげるな的な怒りコメントを残すようなものもいた。画面の何処をクリックしても必ず何処かにジャンプするページがあったかと思えば、何処をクリックしてもなかなかジャンプできないページもあり。数ドットの違いで全く別のページへジャンプするものもあれば、その逆もあったとある。
しかも、そのリンクの繋がりは無限の如し、いつまでも違う場所に繋がっているようだった。このスレはこれ以降のコメントは限界までほぼこの謎のバグサイトのコメントで埋め尽くされていた。
それ以降はこの謎のバグサイトは一人立ちした。
「謎のカオスサイト攻略スレ」
ここではまず、無数にあるリンクはそれぞれしっかりとリンクしており、ランダムではない事が確認された。それ以降は、その細かなリンクのマッピングを始める者。リンクの終わりを探す者。大きく分けて、この2タイプのユーザーに別れていたようだった。
それぞれの道の途中で、ただ感想を述べる者、気に入ったページのスクショを貼る者、など細かくみるとさらに細分化が可能かもしれないが、大きくみるとやはり先にあげた二点になる。
スクショを撮り、そこに何処にリンクが貼られているかをアップするもの。それぞれのリンクからどこページに繋がるかを書いたマッピングドキュメントを作成してアップするもの。リンクの終わりを見つけたと誇らしげにそのページのリンクを貼る者。そのページのリンクを見付け出す者。
そしてそのリンク全てが今ではもう何処にも繋がらない。
一度機は、盛り上がったこの話題も、その盛り上がりは突然終わりを迎える。そのサイトが突如消滅するのである。リンクに移動しても表示されるのは、404。なにもない。
スレ住人は困惑の後に、引き続き研究を続けるものもいたが、時間と共にこの話題に触れるものはいなくなった。
ここまでがその裏ネットの最古の情報である。そして実質最後の確認情報である。面白い話だ。でもここで手がかりは途絶えてかなり時間が立っている。なぜミアハ達は今更になってその話題を持ち上げ、調べているのだろうか。
「知りたい? 別にただ闇雲に面白そうだから掘り下げてる訳じゃないよ。明確な手がかりがあるの」
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