Diary 8/25

 わたしがこのスレを立てる少し前。

 8月の序週、母方の祖母がこの世を去った。祖父はその五年も前になくなっており、葬式と祖母の身辺整理の為、家族全員で田舎に帰っていた。葬式も無事終わり、祖母が一人で住んでいた家の整理を黙々としていた。

 祖母はこの家で祖父と母の三人で暮らしていた。まず母が就職をして一人暮らしを初め二人暮らしになり、その19年後に祖父が他界し、一人暮らしになった。それから5年間、一人で暮らすにはやや広過ぎるその家で、祖母は暮らしていた。生活感がありつつも、隅々まで整理されたこの家を見ていると、几帳面な母は祖母の血を色濃く受け継いでいることがわかる。

 死の直前まで、普段通りの生活を繰り返していたのだろう。祖母はが直前までいつもと変わらず元気だったことは、ヘルスチェックログを見るとわかった。死因は脳梗塞。軽い言い方をするならば、所謂PPK、ぴんぴんコロリ。苦しみの少ない、ある意味幸せな死に様だった。

 この広い家の中一人きりで変わらぬ生活を続けていた祖母は、日々どんなことを考えていたのだろう。御多分に漏れず、機械に弱い祖母はデイリーヘルスチェック以外でコンピューターに触れない。そんな祖母がダイアリーを残しているはずもなく、祖母の生活の詳細は伺いする事は出来ないが、孤独を感じぬ日は無いのではないだろうか。思えば私は祖母のことをよく知らない。もう会えないとわかっていれば、もっと話していただろう。今更ではあるが、私はもっと祖母と話しておけば良かったと思った。

 そんなことを考えながら、整理された家の端から倉庫にしまうもの、処分するものとを分けて、梱包していく。

 そんな中で、あるもので手が止まった。何とも古めかしいデザインのノートパソコンだ。持ち上げてみると、とてもノートとは思えない重量である。持ち運べなくもないが、今の基準から考えると信じられない重さだ。5キロはあるだろうか。こんなレトロPCは処分にもお金がかかってしまうだろう。その筋ならば、もしかしたらプレミアがついているかもしれない。そのくらいもはや今ではお目にかかれないPCだ。なにが古いって、端子が古い。ヘッドセットを繋ぐことすら出来ない。

 そのまま処分の箱に入れてしまっても良かったのだが、一つ息抜きとして一度開いてみるのもいいだろう。バッテリーが心配ではあるが、アダプターもセットであったので、繋ぎながらであれば問題ないだろう。コンセントに関して言えば、このころから変わってないんだ。そんなことを思いながら、ノートPC の電源を入れる。起動画面が開き、本体がカリカリと音を立てる。


 長い。


 聞き慣れないひっかくような音とその長い起動画面。やはり古すぎて、壊れてしまったのだろうか。あきらめてまた整理を再開しようかと、電源に手をかけようとしたその瞬間。清涼感のある機動音がなる。壊れていなかった。

 デスクトップにアイコンが並ぶ。

 並ぶアイコンに見覚えはないものの、名前を見るに私が知るポピュラーなコンテンツとそこまで変わりないものが並んでいる。どんなにソフトウェアが古くとも、それをのせたハードウェアが古くとも、PCはPC。自然な流れで、私はインターネットを開く。ソフトのアップデートを促されるものの、そこまでしっかりと見るつもりもないので、キャンセル。

 世界最大手の検索エンジンが表示される。VRBの生みの親でもある、この大手ネットワーク会社。恐らくこのころから、天下は変わっていないのだろう。末恐ろしい。なんとなく自分のサークルのサイトを検索してみる。

 

 しっかりと検索に引っかかり、一番上に自分のサイト名が表示される。それはそうだ、PCは古くとも、ネットワーク自体は更新を続けているのだ。

見慣れているどころか、自分で作っているそのサイトに何気なくアクセスを開始する。そこには、見慣れたサイトが広がっていることだろう。


 読み込みが終わる。

 そこには知らないサイトが広がっていた。いや正確には、バグっている。素材には見覚えがあった。この素材は私が作ったものだ。だけれど、その構成は混沌そのもので、めちゃくちゃに再構成されていた。


 ハッキング?悪戯?そこまで考えて、はっとする。

 このサイトのベースはVRB用に作成されている。VRB登場とともに、VRBで作成したサイトも、ノーマルブラウザでも閲覧できるアドオンがデフォルトで埋め込まれているので、問題が発生したことを聞いたことは無かったが、このPCはヘッドセットの端子すらないレトロPCで、そのころから更新がされていない様子。つまり旧型のブラウザでVRBを無理矢理閲覧していることになるのだ。

 なるほど、こんな感じに見えてしまうのか。

 本当に混沌としている。あんなにこだわって作ったサイトが、ここまでめちゃくちゃに見えてしまうのだな。寂しさとともに、一回りしてなにか自分の新しい部分を再発見をしたようだった。


 しかし何だろう、この既視感、というか、このようなサイトに見覚えではないが、知っている。

 そんな不思議な感覚に襲われて、はっとする。


 次の日、わたしはスレを建てた。

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