記録5

 わかったことは、たしかにネット上にはクラスメイトが言っていたような、World wide webに属していない謎のネットワークが存在するらしいという噂が存在するということ。それだけだ。

 膨大な関連情報に埋もれて、信憑性もなにもないような情報群。それら情報の様々な解釈と曲解と妄想。そもそもの話が嘘くさいだけあって、周りを固める情報もなんともいい難い情報ばかりだった。

 しかもこれら情報は、ネット上のほんの一部で囁かれているだけで、全体からみればホットニュースでもなんでもなかった。小さなブームと呼べるのかすら怪しい。

 

 ただこの僻地で盛り上がりを見せる第二のネットワーク世界の噂は、私をのめり込ませるには十分魅力的なものである。この手の話は、極論嘘でもいいのだ。ぼんやりしたその種を育て、眺めることが楽しい。

 考察スレッドログも辿り尽くして、いよいよ最新のスレッドまでたどり着いたころ。ひとつのログに目が止まった。


 情報が錯綜してるので、鍵付きスレたてた。ここでめぼしい情報まとめたいな

 http://citruswire.com/it/wp-content/sites/5/2038

 Pas:人生宇宙全ての答え


 鍵付きスレッド。アクセスには指定されたパスワードが要求さエリアのことだ。パスワードは「人生宇宙全ての答え」ではないだろう。あくまでこれはヒントだ。この究極の問いの答えがパスワードだということなのだろう。しかしこれは回答不能な無理難題ではない。一部の界隈の人間に取っては、常識レベルの知識だ。このことで、このスレッドを作った人間が自分と同類であることがわかる。

 私は、またさらに気持ちを高めて、鍵付きスレッドのアドレスにアクセスした。

書き込みと自分との間に、シンプルな扉が現れ、解除キーの入力を促される。そこに私は「42」と入力すると、一瞬の間を置いて扉が左右にスライドして開いた。


 緊張する。鍵付きにするということは、多少なりとも人を厳選しようとしているはずだ。受け入れてもらえるだろうか。まあ本来スレッドとは自由な場だ。誰彼構わず、好きな時な参加して、好きに意見を交わす場だ。余程の無礼を働かない限り無下な扱いは受けないはずだ。わかってはいるが、臆してやめてしまうのが今までだった。ただ今回は違う。なにが自分をここまで駆り立てるのか。ここになにかの可能性を感じる。そんな気がするからだ。決意を固め、開放されたスレッドへ足を踏み入れた。


 細長く薄暗い廊下を抜けると、ぱっと視界が開けた。そこにはホワイトキューブの部屋が広がっていて、幾つかのログが浮かんでいる。ただ人の気配は無い。今はこのスレッドにはだれもアクセスしていないようだ。


一気に肩の力が抜ける。


 しばらく待ってみようか。部屋に疎らに浮かぶログに手を伸ばそうとしたそのとき、スレッドのドアが開いた。

 

 現れたのは、黒髪が印象的な女性型アバターだった。


「あれ? 見ない顔だね。しかもアバター持ちとは」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る