第94話 最終管理

 今私たちの目の前にはMISAKOがいた。中央制御室に仮設のテーブルや機材を用意し、MISAKOをケーブルで繋ぐ。三鷹の指示によって大幅にバッテリーを消耗した彼女の身体もかなり傷みきっており、延命治療を行わなければ状況にあった。

「よーし、いいか。今の新規格のケーブルは持ってくるな、旧規格のケーブルを探すんだ。古い倉庫からアーカイブ室まで、くまなく探せ。あと、彼女の破損部分の部品で代替出来そうなものがあったら何でもいいからもってこい。いいな! 後気を付けて欲しいのが、旧規格は新規格と違ってこの部分の端子の数が特に違うんだ。それにオスメス間違えるとリブート出来ない。極めてデリケートなんだ。そして──」

 近藤は何も言えない江口に代わってアンドロイド・ディベロップメント社の社員に対して熱心に指示を出していた。何せ、MISAKOは何十年も前の機体でメンテナンス方法は今と大きく異なる。若手社員ばかりのこの会社で彼女のが出来る人間など、江口ぐらいしかいなかった。

「いいのか? 近藤に全てやらせて」

 俺は椅子に腰かけぼんやりとしている江口に問う。一時の危機的状況は過ぎ去ったとは言え、まだ予断は許さない。安どの空気が漂う中央制御室であったが、本番はこれからだ。

「いいんだ。言っただろ? さっきの三鷹への署名で私の社長という役は効力を持たなくなった。アンドロイド・ディベロップメント社は解体される。この社員たちもどこかの会社へ吸収される。私は今、口を出せる立場では無いんだ」

「ほう。江口からそんな言葉が出てくるようになるとはな。何だか感慨深いよ。──そう言えば、さっきの青年、無事に意識を取り戻したらしい。これで、無事私たちの計画は進められる。アンドロイドと人間が紡ぐフィナーレだ」

 MISAKOは私たちが知らない間に波星劇団という所へ入団し、主役を務めるまでのし上がったらしい。騒動を知った団長の相川さんに先ほど事情を話したばかりだった。

「しかし、その青年がここに来るかどうかはまだ分からないぞ、近藤」

 江口は机に置かれた青年についての資料を見ながら言った。確かにMISAKOが彼を大きく傷つけた今、彼自身の気持ちは大きく揺らいでいるかもしれない。もし彼がMISAKOとの面会を拒否すれば、またしてもこの計画は窮地に立たされる。

「来ることを祈るしか我々には出来ない。MISAKOがコントロールされていたとは言え、MISAKOという形のアンドロイドが彼に危害を加えた事は事実なのだから。それを変える事は出来ない」

 MISAKOは修正パッチを彼と一緒に完成させようとしている。私たちは必ずしも人間と一緒にこの問題を解けとは命令していなかった。だが、結果としてMISAKOが提示したのは人間と共に答えを提出する事だったのだ。

「信じる事。これは人間にしか出来ない事だ。──信じるしか無いんだ」

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