第57話 緊急会議

 突然の河本大臣の来社によって、社内の空気は一変していた。社員たちの背筋も幾分か伸びた気がする。人工知能省の方向転換によって新たな設計を施したアンドロイドの製造がまだ続いている。

「製造は順調かな、江口社長」

「順調とは言い難いですが、先日発表した『夏希』シリーズの後継機種を鋭意設計中の段階です」

「なるほど。夏希シリーズの売り上げは」

「順調に推移しております」

 恐らく話の前置きだろうが、こうも夏希シリーズの話をして、本題に入ろうとしないのは余程話したくないものなのだろうか。

「さて、本題に入ろうとしようか。──いや実はね、以前お話した例のAIの件がどこかの誰かのリークによって週刊誌に掲載されてしまった」

「え!?」

 本剛が声を上げた。週刊誌にリークだと。人工知能省の最高機密が世間一般の雑誌に漏れただと。そんな事がどうやったら起こるんだ。

「本当なんですか、河本大臣」

「これを、江口社長」

 河本大臣が差し出したのはタブレット端末だった。そこには、今週発刊された週刊誌が表示されていた。

「週刊『未来科学』ですか」

「そうだ」

 週刊『未来科学』は名前の通り、未来に向けて最先端の技術を紹介する理系の雑誌だ。これまでも俺の会社が製造してきた数々のアンドロイド製品を取り上げてくれた、謂わばアンドロイド業界の「支持者」だった。

「参りましたね。週刊『未来科学』がこの様な記事を出すとは。今までの友好関係が崩壊する可能性があります」

 三鷹が険しい顔をしながら言った。その通りだ。人工知能省の機密情報を大々的に打ち出して記事にした「未来科学」は同時に俺たちの会社と対峙する事になる。一体、どんな力が働いたのか。

「週刊『未来科学』を発刊している大越出版に連絡は」

「入れているんだが、音信不通が続いている。まぁ人工知能省の大臣である私が掛けた所で出るわけもないだろう」

 本剛が口を開く。

「これは深刻な事態ですね。この雑誌の影響力はかなり大きなものです。これによって現在のアンドロイド法の改正に対する世論が大きく反対に傾く可能性があります!」

 その通りだ。このままでは、世の中の敵対視線は人工知能省だけではなく、製造元である俺たちにも当然降り注ぐ。まずい。すると、三鷹が重い口を開いた。

「河本大臣。ここは中小規模のアンドロイド製造会社の重役も呼んだ、緊急会議を開きましょう。この影響は我々大手三社以外にも及びます。ここでこうやって話しているだけでは、いつか大事になります」

「そうだな。近日中に全国のアンドロイド産業連盟に加盟している会社全てに緊急招集をかける。このままでは、まずい」

 河本大臣の目の色が変った。まずい、アンドロイド産業が傾いてしまう。一体誰なんだ。リークした人物は。

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