第42話 始動

 木元から連絡が入ったのは、丁度私と近藤で作戦会議をしている時だった。木元は落ち着いた口調で江口が我々の動きに感づき始めているという事を伝えてきた。

「それで木元。この後はどうするつもりかね」

「私は江口の気を引くつもりでいます。江口が詮索する対象を私へと仕向けるつもりです。江口は恐らく、私の後ろに誰かがいる事を確信している様で私の行動を秘書アンドロイドを使って監視しています」

「なるほど。江口もついに本気になってきたということか。だが、気を付けないといけない。あいつは本気になると手段を選ばない。もそうだった。木元、お前殺されるかもしれないぞ」

 ついに江口も本気になってきたというのか。これはまた、あの激動の時代の再来ではないか。あいつの心の奥にある暗闇を今こそ世界中に見せつけなければ、世界は江口に支配されてしまう。

「それは承知の上です。野村さん。私もあの会社に潜入して長いこといますが、江口はどこか人間の情が欠如している様に伺えました。彼は利益を最優先にする。最適解を見つけてそれが人を殺そうが、人間関係を滅茶苦茶にしようがお構いなしな奴だという事に気づいたんです」

 その通りだ。江口は世間の目に映る姿と本心はまるで別物だ。あいつは金と権力のためなら何だってする化け物だ。だが世界最大手の会社の社長となった今、世界は彼を英雄の如く賛美する。皆江口の戯言に振り回されているに過ぎない。

「それで、野村さんはこれからどうするのですか。私は江口を引き付けますが、その間にどのような作戦を?」

「それは秘密だよ、木元。君に今まで長いこと協力して貰っているが、ここから先の話は君たちが生きた時代とはかけ離れたものが待っている。それを君に話してもきっと信じまい。それに、この話を漏らされでもしたらこの計画は全て水の泡になってしまう。君は全力で江口を、あの魔物の気を引いてほしいんだ」

 画面越しの木元が一瞬険しい顔になったのが分かった。お前が堪えた言葉は分かっている。こんなにも長く一緒に作戦を遂行した仲間に私は本当の意味を教えなかった。信頼されていないとも思っただろう。

 だが、この戦いは木元たちが生きた時代の前の恐ろしい事件を背負っている。江口に今この世界の軸になる事を止めてもらわなければ、未来は狂いと恐怖に飲み込まれてしまう。

「分かりました。私は野村さんを信じています。この戦いが終わった後、きっと笑って会えることを」

「私もそうしたいと思っている。どんな事があっても、絶対に生き抜け」

 いよいよ戦いが始まる。

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