6章
第41話 闇会議2
俺は社長室に西本を呼んだ。第一の目的としては黒幕に迫る事であるが、最近会社を抜け出しては帰ってきているとの噂を耳に挟んだ。今日はその事について追及しようと考えていた。
「社長。何か御用でしょうか」
「勤務時間にすまないね。──俺も出来れば勤務後に飲みに行って話そうかと思っていたが、あいにく西本と飲む気分ではなくてね」
西本は私の煽りに静かに笑って見せた。恐らくだが、俺が色々と詮索をしている事にとうに気付いているのだろう。俺の方へと歩み寄ってきた西本は丁寧に礼をした。
「江口社長も随分とお疲れのようですから。ご心配なく。──それで、話というのは何でしょうか」
「最近、随分と会社を出入りしているようではないか。それも、通常業務中に」
「それは誰かに、聞いたのですか?」
「ここは俺が社長の会社だ。調べればすぐに分かる」
「なるほど」
西本は部屋をゆっくりと一周し始めた。確かにこの男は俺に隠し事をしている。そして、外部で会っている人物こそが黒幕なのであろう。
「もしかして、変な事をしているのではないのかと疑っていますか? 社長」
俺の前でぴたりと止まった西本は俺の顔をじっと見た。
「会社での態度が宜しくないときたら、それ相応の対応をとるのが普通であろう」
「なるほど。実に古い考え方ですね。江口社長」
挑発的な目つきをした西本はくるりと背を向け再び歩き出した。
「この会社は何をする会社ですか? ──そうアンドロイドを作る会社です。未来を創る会社です。人々に夢を売りつける会社です。それなのに、何故会社の運営をまだ人間がやっているのでしょうか」
「何を言い出すかと思えば。君だって立派な人間だろう。この会社は人間が造り、人間が最大に尊重されるべき場所である。アンドロイドという機械は、我々の道具であって人間を駒のように動かす支配者になる権利など与えられない。今更、何を言い出すかと思えば、馬鹿馬鹿しい」
「それはこちらのセリフです。社長。今更、何を言い出すかと思えば。──馬鹿馬鹿しい」
西本はそのどす黒い目を私に突き付けた。こいつはアンドロイドが人間を指図する、まるでSFのような世界を目指しているのか。だとすれば、西本の黒幕も同じ思想を持った人間なのか。
「お前は、この会社をどう思っているんだ」
「無論、この会社に骨をうずめる覚悟で働いております。社長の意見に従うつもりでもありますよ。──今の話も所詮部下の戯言でありますから、お気になさらず」
そう言い残すと西本は部屋を出て行った。恐らく、黒幕はこの会社を飲み込もうと企んでいるに違いない。その架け橋になるために西本をこの会社に送り込んだ。それとも、もっと別の意味があるのか。どちらにせよ、西本は会社にとって危険な人間であるに違いない。ここはクビして会社を追放すべきだろうか。いや、西本をクビにしたところで黒幕は変わらず動くだろう。敢えて西本を会社に残して情報を抜き出した方が良いかもしれない。
「咲子。ちょっと頼みたいことがある」
俺はこの勝負に勝たなければ、この会社の未来は無いと確信した。
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