第40話 約束
美沙子さんと食事を初めて1時間程が経とうとしていた。私はご飯を食べながらも遊園地へ行く約束をどうやって切り出すかで頭が一杯になっていた。そもそも、美沙子さんには今日ご飯を食べに行こうとだけ言っているせいで、向こうも何も気に掛けること無く時間が進んでいった。
「そう言えば、直人さん」
「何でしょうか?」
「直人さん、あの本全部読みました? 最初に古本屋に行った時の」
「えぇ。一応一通りは読み終えました」
「良かった! あの本と今を比べたらまさに、あの通りだなって思ってたんですよ。この話がしたくって」
本の虫である美佐子さんにとって、本の話をする事が一番彼女にとって楽しい時間なのであろう。目を輝かせながら彼女は、その本について話し始めた。
「未来、人間の社会にアンドロイドが完全に浸透するっていう話があるんですが、その年代が丁度今なんですよ! あまりにも予測と現実が当てはまりすぎて驚いちゃったんです」
「確かに、あの本にはそう書いてありましたね。まるで未来から来た人が書いていったみないな緻密な文章ですよね、あの本」
私も美沙子さんと同じ事を実は思っていた。私もあの本を初めて読んだとき、その細かな予測と予測時代が合致し過ぎて、驚いた。未来人が書き残したんじゃないかと考えた程だった。
「良かったです! 直人さんにあの本を薦めて。あの本の面白さに気付いたのなら、直人さんもあの系統の本を沢山読んでみてください!」
偶然が繋がったあの本であったが、結局こうやって楽しく話が出来るとは結果往来なのかもしれない。
「そういえば、直人さん。今度、遊園地行きません?」
「え?」
唐突な話に思わず変な声を出してしまった。私はまだ誘っていないはずだが、今遊園地という言葉が聞こえたような気がした。
「どうされましたか?」
「あ、いえいえ。その──」
「遊園地、お嫌いなんですか?」
「そんな! 好きですよ? 私は」
「良かったです。私、大昔に遊園地に行った事があったんですが、その時の楽しさが忘れられなくって。もう一度行きたいなって思ったんです」
「大昔って。美沙子さんまだ若いじゃないですか」
「年を取りましたよ、随分と。もうお婆ちゃんです」
お茶らけて見せる美佐子さんに思わず笑ってしまった。彼女は恐らく小さい頃に遊園地に連れて行ってもらったのだろう。先に言われてしまったが、彼女と行きたい場所まで同じ事を考えていたのだとすると、これもまた一つの縁なのかもしれない。
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