第39話 食事と
変なアンドロイドに絡まれたせいで、少々遅れてしまった。小走りで向かうと美沙子さんはお店の入り口で待っていた。
「遅れてすいません!」
「いえいえ、私も丁度今着いたところですので、お気になさらないでください」
美沙子さんはにこっと笑った。そんな彼女の表情を見て、私は安心した。彼女は舞台稽古上がりともあって、暗めの洋服だった。私は店の扉を開けて中へと入った。
「予約していた──」
「直人様ですね。こちらへどうぞ。ご案内致します」
ここは数少ない人がお店の管理を行っている所である。最近のお店は殆どが無人だったり、会計管理は全てAIが行っているが、未だに人が注文をとったりする事にこだわっている。少々値段はするが、高級志向のリピーターがついているらしい。
「お席はエレベーターでご案内致します」
私は夜景が一番綺麗に見えるという最上階の席を貯金をはたいて予約した。森部の言う通り、周りにいるお客さんは皆高級そうなバッグやイヤリングを身に着けている。
「こちらになります」
丁寧な店員が案内した席からの景色に私は息を呑んだ。遠くにはアンドロイド産業街の高層ビル群の明かりが煌々と輝き、その周りには大小さまざまなマンションがひしめき合っているのが見える。
「綺麗……ですね」
「こんなに良いお店を知っているとは、流石です、直人さん」
美沙子さんは私の手を握ると子供の様に喜んでいた。彼女は席に座っても尚、料理のメニューも見らずにただただ、夜景をじっと眺めていた。私はそんな美沙子さんの横顔を静かに見た。彼女は本当に純粋な人だと思えた。森部に心の中で感謝した。
──ブランクID。
先ほど会った女の声が突然蘇ってきた。なるべく考えないようにしていたが、私はどうしても女の探している何かが気になっていた。
「──直人さん?」
「あ、あぁすいません」
「ボーっとされていたので、体調でも悪いのかと思いました」
「いえいえ、ちょっと考え事をしていただけです! ご心配には及びません」
「それなら良かったです。早速、注文しましょうか」
美沙子さんはどれにしようかな、と独り言を呟きながらメニューを眺めていた。可愛らしい目を左右に上下にしながら、じっと見ている美沙子さんはいつまでも見ていられると思った。
いかんいかん、今日は美沙子さんを遊園地に誘うことが目的である。変なアンドロイドに絡まれたから何だ。シャキッとしなければならない。
「このパスタとか美味しそうですよね」
「そうですね! まずはこれを頼みますか」
私は店員を呼んで、美沙子さんが食べたいと言ったパスタを二人分注文した。私は大きく深呼吸をして美沙子さんを見た。美沙子さんはにっこりと笑って「どうされました?」と首を傾げた。
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