第37話 閉鎖区域
どうやら、野村が動き出したらしい。あの例の閉鎖区域の黒い歴史に決着をつけるのだろう。しかしながら、あの時代と今では時の流れは全く違う方向へと向かっている。
『アンドロイドと、未来を創る。-アンドロイド・ディベロップメント』
CMで良く聞くようになったな。江口よ。お前の会社は今、どうなってる? 閉鎖区域の歴史は忘れてしまったのかね。俺は今でも、お前があの時言い放った言葉は忘れていない。社会の中心軸となったお前にもう一度問いただしたいものだな。
「近藤。――久しぶりだな」
「来たか野村。お前こそ、死んでなくて良かったよ」
「死んでたまるかよ。歳は相当食ってしまったが、けじめはつけてから死にたいものだよ」
野村を呼んだのは、言うまでもなく江口の件でだった。俺と野村の共通の知り合いである俺たちは久しぶりに集まった。
「近藤が持ってたあの例のブツはどうなった? 闇にでも葬ったか」
「まさか。一つを除いで綺麗に保管してあるさ。あんなもの、捨てられるわけないでろう」
「もう随分と時間が経ってしまったな」
「いや、これぐらい時間が経たないと計画が遂行できない」
私と野村はずっと息を潜めて生活をしていた。かつては江口とも交流はあったが、色々と厄介が起こって会えなくなってしまったのだ。
「アンドロイド・ディベロップメントの中心幹部の中に木元という俺の手下を紛れ込ませている。幹部になるまで、時間が必要だったんだ」
「なるほどな」
近藤は窓を開けると、近くで煙草を吸い始めた。今時、煙草を吸う人も随分と減ったが、近藤が相変わらず吸っているのを見て安心した。
「閉鎖区域の方はどうする。今のところ、大きく変化は無いが誰かが入ってくるかもしれない。警備アンドロイドを配置するのは、ありなのではないか」
「確かにあの場所は、数十年前の状態で時間を止めておく必要がある。これから先、もしかしたら江口の連れが来る可能性もあるなら、セキュリティを張っておくべきだな」
今閉鎖区域の真実が分かったら世界が歪むだろう。そのぐらいの事実があの閉鎖区域には大切に保管――いや、隠蔽されている。隠蔽されていなかったら、今の社会は成り立たなくなってしまうからだ。
「一度始めた事は終わりにしなければならない。永久など、有り得ない」
「もちろんだ、野村。これ以上、世界が”理想”を謳うのはやめにしないか」
この世界が理想化されていっている事に俺は危惧していた。無理やり時代を進歩させようとしたツケを全て閉鎖区域に追いやって、臭い物に蓋をした連中はしっかりとその現実を見てもらわなければならない。
「まぁ、今日は再会を祝って晩酌でもするか」
「そうだな」
──野村と俺が再会した事を江口が知ったら、きっと恐れるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます