第35話 こんにちは。

 私はアンドロイド・ディベロップメントが出した新作発表会のニュースを見ていた。そこには、二体の新作アンドロイドが並べられていた。一人旅の途中にも関わらず連絡をして来た森部がニュースを見ろと言ってきたのだ。森部は宿泊先のテレビを見ていたらしいのだ。

「我々、アンドロイド・ディベロップメント株式会社では、人工知能省の方針変更に伴い、より親しみやすいアンドロイドの研究を行いました。法人から個人のお客様まで、幅広いニーズに応えるべく、今回七年ぶりとなる新ブランドの設立を行いました。――それが新ブランド、『夏希』シリーズです」

 二体のアンドロイドがお辞儀をした。一斉にフラッシュが焚かれる。テクノロジーの進歩は恐ろしく、今までのアンドロイドとは比べ物にならないほど自然な笑顔を見せていた。

「皆さん初めまして。こんにちは。私たちは新ブランドの夏希です」

 ボブカットの二体は法人向け、個人向けを想定してスーツ姿と私服姿だが、同じ演出が成されているせいか、双子のようだった。

「こちらが、そのアンドロイドとなります。ここからは、今回の開発責任者である井上君に説明してもらいます」

「江口社長に代わりまして、今回の責任者である井上が話させて頂きます。まずこの夏希ブランドですが、従来のオフィス向けの固い感じを払拭を目指しており、街を歩いていても違和感が無いような柔軟な表情をしています。多言語にも対応しており、人工音声システムも大幅に改善致しました。小さなお子さんからご年配の方まで、幅広い年代で使用されることを目指しています。これから、彼女たちをよろしくお願いいたします」

 井上さんが礼をしたと同時に彼女たちもお辞儀をした。説明は多くなくても伝わってくるその「人間らしさ」はまるで生きているかのようなクオリティだった。

 だが、私は美沙子さんとの食事のことで頭が一杯になっていた。明後日の夜、私は美沙子さんと食事に行くのだ。心臓がバクバクして、不安と嬉しさが入り交じっている。こんな事でいちいち心臓バクバクになっていたら、もたないぞと森部から電話越しに言われたが、それは無理な話だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る