第31話 春風の夜

 アパートに戻って再びお酒を飲むころには、すっかり皆ゆったりとした感じになっていて、飲み会も終わりが近づいている雰囲気が出てきていた。香織はアパートに戻るなりいつもの明るい話し方に戻り、さっきまで私と中学の昔話や私の彼女について話していた事が嘘のような振る舞いをしていた。

「今日は中々楽しかったな」

「間違いない。ホント、直人おめでとう」

 周りの友人たちは改めて私に彼女が出来た事を祝った。照れくさくてどういう風な反応をしたら良いのか、まるで分からなかったが香織の忠告通り、慣れておく事にした。

 暫くすると、友人たちは帰り始めた。香織も明日はバレーサークルの早朝練習があるとかで、早い段階で帰っていった。気が付けば結局私と森部だけが部屋に残った。皆でわいわいと集まって話した後にくるこの静寂は、何度経験しても寂しさがこみ上げてくる。みんな今頃自分の家に帰って寝る準備でも始めているのだろう。

 ──恐らく美沙子さんも。

「楽しかったな。お前の惚気話を肴に飲む酒は」

「うるさいな。そんな惚気てないだろ?」

「古本好きの彼女とは、お前が一番好きそうなタイプじゃんか」

「からかってんのか」

「からかってんだよ。当たり前だろ」

 森部はテーブルに飲まれずに余っていた缶ビールを手にとると、飲み始めた。急に静かになった部屋に取り残された様な感じがした。私はテレビの電源を入れた。テレビは相変わらず、アンドロイドの話で持ち切りになっていた。それと同時にアンドロイドのCMが流れていた。

「最近急に増えたよな。アンドロイドのCM」

「規制緩和したからな。製造会社も法人向けと同じくらい一般客に売りたいんだろうよ」

「なるほどね」

 そういえば美沙子さんが演じていたステージもテーマはアンドロイドだった。これから暫くは恐らくアンドロイドが良くも悪くも流行するだろう。

「後は付き合ったんだから、しっかりデートだな」

「お前は俺の親かよ」

「いいだろ? 恋愛初心者には教官がいた方が安心だろ」

「お前は勝手に合コンでも開いてろ」

 他愛もない話をしている内に夜も深くなってきていた。森部も遂に帰ってしまい、私一人になった。

 これからどうしていこうか。私は悩んでいた。

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