第30話 夜道
私は香織と買い出しに行くことになってしまった。夜道は暗く、だけど所々建物の明かりがついていて、静かだった。
香織とは中学からの同級生で、高校は違うところへ行ったが、大学で再び一緒になった。中学ではバレー部のキャプテンを務める様な運動神経を持つ、簡単に言えば私とは反対の青春を送ってきたような奴だ。
「今日は大忙しですねぇ、直人くん」
「好きでこうなってるんじゃないよ」
「森部から聞いたときは驚いたよ。まさか直人くんに彼女が出来るとはねぇ」
わざとらしくからかい口調の香織を横目に私は前を見ながら歩き続けた。
「私だって彼女ぐらい出来るよ」
「直人くんは博識なイメージがあったから、彼女作るのも論理臭いのかなぁって思ってたけど、一目惚れとは意外だね」
「何だよそれ」
「で? 彼女とは順調で?」
「付き合い始めたばっかで、順調も何も」
再び静かになった。春風が吹いて、お酒で熱くなった身体が冷めていくのが分かった。香織は「ふーん」と言うだけで何も言わなくなった。
「香織こそ、彼氏とは順調なのか?」
「まぁね~。阿呆な彼氏だけど、頑張ってるよ。まぁ男と女が付き合うってのはさ、正解も不正解も無いんだから気楽に付き合うといいんじゃない?」
「助言か」
「直人くんの事だから頭固いんじゃないかなって思ってね。人の心なんて、勉強みたいにぴったり正解みたいなのは無いからさ」
「からかってんのか」
「からかってるよ。彼女が出来たらからかわれるのは当たり前だよ。今のうちに耐性つけときな」
香織はにっと笑って腕の筋肉を拳で叩いて見せた。相変わらずの無邪気な奴だ。
気がつけばコンビニの前まで来ていた。取り敢えず、お酒を買おう。
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