第10話 トランスPhase3
兎にも角にも、森部は私のデートにあれこれと文句を付けては笑い話にした。最も私の想定内の反応で大して腹が立つ事も無かったが。
「その娘はやっぱり容姿端麗だし、ここでチャンス逃したら勿体ないぞ」
「容姿容姿って、森部見た目しか見てないのかよ」
森部は面食いな所がある。私も含めて人はついつい容姿が綺麗な人を好きになりやすい傾向があると昔から言われてきた。こんな事を言っている私も、美沙子さんを最初一目見たときに惚れてしまった。所詮は一目惚れである。
「俺だって性格は重要だと思ってるさ。勘違いするなよ?」
森部は酔っぱらうと呑気さが増して、てきとうなことをよく抜かしている。今日のこの下りも今までに何回聞いたことか。
「お前、今日全然顔が冴えないな。いつもなら、多少笑っててもいい時間だ」
突然、正気が戻ったかのような口ぶりになった。森部は人を観察する力が人一倍ある。大学で知り合って以降、私は森部のこの観察力に助けられたり、逆にとんでもなく酷い目に遭ったりした。
「そりゃ、今日盛大に失敗したんだ。多少はへこむ」
「へこむまでは当たり前だ。俺だって好きな女の子の前でヘマしたり、一歩前に出ることが出来なかったらへこむさ。──だけど、お前はもうそこで諦めてないか?」
「──何だよ」
「ここが踏ん張りどころだってことよ。直人、お前に彼女が出来る出来ないは別として、お前は踏ん張らないといけない時に良くチャンスを逃してんだ。お前だって思い当たる節はあるだろう」
こればかりは何も言い返せない。現に、今回のデートでここまで漕ぎつけたのにも関わらず、私はこのチャンスを手放そうとしているのだ。耳が痛くなりそうな話だが図星である以上、何も言い返せない。
「もう一回あって来いよ? その後、飲むまでが約束だからな」
「なっ……。分かったよ」
そんな事は私自身が一番分かっている。このまま引き下がれば、過去何回も繰り返した失敗と何ら変わらない。森部の言う通り、ここは踏ん張りどころだ。
──頭の中で美沙子さんの姿がちらついた。
理由も無く謎の闘争心が沸いた。
「──頑張るよ」
「もし失敗したら、盛大に笑い話にしてやるからな。覚悟しとけよ」
森部は持っていたウイスキーのロックを飲み干して、いつもの通り馬鹿笑いをした。さっきまでの真剣な表情はどこへ行った。──ただのお節介なのか、ただの阿呆なのか。それとも。
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