第9話 トランスPhase2

 森部に呼び出された私は、森部が行きつけだという居酒屋に向かうことになった。森部は同じサークルの友人で、大学でもよく同じ講義を取っている。

 居酒屋に向かうとほぼ満席になっていた。奥の方で私に向かって手を振る人影が見える。

「直人! こっちだこっち!」

「相変わらず酒好きだな。こんな時間に私を呼び出すとは、どうせ飲む相手見つからなかったんだろ」

「いつもならそれが理由だが、今日は違う。お前、今日だったよな? 例の娘とのデート」

 思わずギクッとした。何でまたこいつは私のプライベートを知っているんだ。森部に今日のデートの事を伝えた覚えはない。

「何でお前が知ってるんだよ!」

「悪く思うな。悠太から情報は筒抜けだ」

「あの野郎」

 悠太もまた、私の友人だ。今回のデートに関しては、全部悠太に相談していた。悠太に何か交換条件でも持ち込んだか、はたまた元々森部にリークする気で悠太が聞いていたのだろう。森部は色恋沙汰を大袈裟にとる性格が故に相談を避けていた。

「じゃあ今日は飲む相手を見つける以前に、最初から私と飲むつもりでいたんだな」

「まぁな。――で、どんな感じだった」

「その前にビールを頼ませろ」

『ご注文ありがとうございます! 生ビールをお持ちします』

 ここは無人居酒屋。AIがユーザーの注文を判断して、品物を出す仕組みになっている。格安で何より品出しが早いため、近年コンビニと同じくらいの店舗数に拡大しつつある。

「お待たせしました。生ビールです」

 机の表面が四角にくり貫かれ、下からビールが迫り上がってきた。

 森部は飲みかけのビールを持って乾杯の準備をしていた。

「取り敢えずは乾杯だ、直人」

「お前は何時でもでいいな、森部」

 グラスのぶつかる甲高い音と共に私はビールを体に注ぎ込んだ。

「それで、その娘の写真を見せてもらおうか」

「え? 写真? そんなもの撮ってないよ」

 写真を撮る程の余裕など無かったとは言えない。だが改めて考えると、写真を撮り損ねたのは失敗だった。

「あのなぁ。写真は撮らないと。デートの鉄則だろ?」

 森部は呆れ顔をこちらに向けた。何度も言っている気がするが、私は阿呆である。

「仕方がない。撮る暇が無いくらい楽しかったんだ」

「苦し紛れの言い訳はよせよ。――なら仕方がない、SNSのアカウントくらいは交換しただろ? そこに彼女の写真ぐらい、写ってるだろ」

 森部という人間はまるで恋愛をテンプレート化した様な人間に感じられた。恋愛というものは王道テンプレートの上を進むものなのか。私には分からない。

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