珍しいストーカー。

未定

珍しいストーカー。

僕はストーカーだ。

数ヶ月前からある女性の事をずっとつけている。

名前も歳も知らない女性の事を。


その彼女はとても綺麗で大人びた女性だ。

いつも夜遅くに帰る彼女の後をつけていると、たまに目が合う。

すると彼女は、逃げるどころか近寄ってくる。

しかし結局少しだけ僕のことをみつめてすぐに行ってしまう。


そんな日々が数ヶ月続いたある日、

いつも通り夜遅くに、いつも彼女が通る道で僕が待っていると、いつも通り彼女が歩いてきた。

しかし彼女は見知らぬ男性を連れて歩いていた。


その男性は背が高く細身で、とても爽やかな印象だった。

家の方に男性と歩いて行く彼女に向かって僕は、

「待って!」と言い放った。

しかし声は届かなかった。

なぜ彼女は僕以外の男性と歩いているのだ。

僕は嫉妬した。


僕は急いで走り、彼女とその男性の前に飛び出した。

しかし彼女は僕を避け、そのまま家の方へ行ってしまった。


僕よりあの男性の方が好きなのか、

僕はまた嫉妬した。


前に飛び出してもダメだったので僕はついに彼女を襲うことにした。

なぜ彼女の事を襲うことにしたのかは自分でも分からない。

しかしとにかく僕は嫉妬をしており、男性と彼女が彼女のアパートに入るのを止めたかったのだ。


男性が少しよそ見をした瞬間を見計らって、僕は彼女を覆い被さる形で襲った。

しかしすぐに振り落とされた。


男性が「大丈夫?」と彼女に声をかけると、

彼女は、「うん、でも私、猫アレルギーなのよね。」

そう彼女が言った。

そのまま二人は僕に見向きもせず彼女の家に入って行った。


そう僕は猫なのだ。

人間の女性を好きになり、人間の女性の後をつける猫。

彼女に言葉を伝える事もできない猫。

叶わぬ恋を追い続けるマヌケな猫なのだ。

こうして僕は初めての失恋をした。

そのまま僕はショックでその場で寝た。


翌朝、ふと起きるとちょうど彼女がアパートから出てくるところだった。

アパートから出てきたのは彼女一人だった。

複雑な心境で目を合わせないようにしていると、彼女が近寄ってきて、僕の前にしゃがんだ。


彼女はしばらく僕を見つめ続けていた。

僕はその間ずっと目をそらしていた。

すると彼女は僕の頭に手をかけ、撫でるように手を動かしながらこう言った。


「昨日はごめんね」


その言葉を残し、再び彼女はアパートに戻って行った。


僕は泣いていた。

猫のくせに人間のように涙を流しながら。

この涙が感情によって出たものかは自分でも分からない。

でもとにかく嬉しかった。


彼女が僕に声をかけてくれた事。

彼女が僕に触れてくれた事。

全てが初めてで、全てが僕にとって一番嬉しい事だった。

やっぱり僕は彼女が好きだ。


僕はその日の夜からまた彼女の後をつけていた。

ほぼ毎日彼女の後をつけるだけ。

前と変わらない日々。

ただ一つ変わったのが、彼女が時々僕に話しかけてくれるようになった事だ。

とても小さな事。

それ以外は全く以前と変わらない普通の日々。

しかしこの普通の日々が今の僕にとって一番幸せな事なのだ。

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