T−E−N

朝未尚

1.狩人

この街の秋は寒い。


まだ10月だというのに、まるで年末のような寒さだ。

ましてや、この時間帯、つまり、夜の8時頃の寒さは、街を行く人々に些細な、しかし鮮明な記憶を刻んでゆく。


駅前の広場に集まる人々ー。


ある人は恋人と。

ある人は会社の同僚と。

ある人は大切な家族と。

ある人は仲の良い友人達と。


身に刺さるような寒さを和らげようと、人の環を作り、思い思いの時間を過ごすことでロングコートやカーディガンでは防げない初冬の寒さを忘れようとしている。




「…あのぉ、俺ら得体の知れないバケモン潰すよりも、イルミネーションでいちゃつくリア充らを先に殲滅したいんすけど。」


街の中に佇む一際大きいビルの屋上で、一人の青年が愚痴を吐く。


歳の頃は10代後半。すらりと伸びた手足に重なるボディスーツが月光を受ける様はまるで鋭く尖った刃のよう。

軽く猫毛な黒髪はコメカミの辺りから白く染まっている。


良く整った顔、蝋のような白い肌と、月の光をも吸い込むような黒の瞳。


この世の終わりに現れる天使のようなその青年の顔は、この上ないような苦痛に染まっている。




「まあ、そうカッカするな。今回が初めてじゃないだろう。俺らがあの奴らを潰すからこそ、街は平和なんじゃないか。」


インカム越しに聞こえる初老の男性の声。

まるでオモチャを買い与えられず駄々をこねる子供を慰める父親のような口調だ。


「…はぁ、アイツらが街グチャグチャにして、リア充聖地無くなりゃいいのに。」


青年が愚痴を再び漏らすと、すぐさま


「おら、なんか言ったか。」


さっきの男性の声が喝を入れた。



ドグォォォン!!



街の西の方から、夜の闇を破るような凄まじい爆音が鳴り響いた。次いで逃げ惑う人々の悲鳴。



「おや、おいでなすったか。」


「こっから100メートルもない。いけるか、那由多。」


ニマニマとした顔が浮かびそうな声がインカムから流れる。

「…あいよ。もしこの作戦失敗したら、今度こそリア充対策委員会立ち上げてくっさいよ、長官。」

那由多…名前を呼ばれた青年は、少し嫌そうな顔をもう一度してから、ぐっと背伸びをした。


ーーこっから100メートル…

ーーなら、飛び降りても誰も分かんねぇよな!



青年の腕が、まるで矛のような形へと変わる。

青年の体重がフェンスの外、夜の闇へと傾いた。





さあて…


















殲滅開始。








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T−E−N 朝未尚 @00552277

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