第2話 司書さんと印と…
トーストを食べる時に何もつけないのが主義という渚は大学の図書館に来ていた。
今日は空きコマがあることもあり、図書館で本でも読もうかと考えていた。
まるで駅の自動改札機のような入り口で学生証をタッチして中へと入っていった。
一階は本は置いてはおらず、壁に付けられた引き出しに様々な新聞が置いてあった。
その他にもゆったりとくつろげる低反発の長いソファが置いてあり、そこで寝ている学生もいた。
階段を上がっていくと全体的に少し薄暗く設定された明かりと読書照明付きの机がいくつも並べられ、その周辺に司書たちのいるカウンターがあった。
「あら?蝶野さん」
「こんにちは有栖さん」
ふんわりとした雰囲気を醸し出している綺麗と言うよりは可愛い系の童顔の女性が渚に声をかけてきた。
彼女はこの大学の図書館の司書をやっている
とある出来事で知り合ってそして今に至るという訳だが、よく渚を見かけた時に挨拶をしてくれたりする優しい人である。
「今日はどうしたの?」
「空きコマなので、本でも読もうかと…」
「だったらおすすめの本があるから待ってて!」
キラキラと輝いた目をしていた。本当にこの人は本が好きなんだと改めて実感していた。
だが彼女の勧める本はどれも面白い。自己啓発の本から小説、ラノベなんかも勧められたものはどれも面白く、外れたことは無い。
彼女に連れられて、その本がある所へと案内された。
そして琴海は台を持ってきて高いところにある本を取ろうとしていた。
その時、彼女の童顔のギャップとも言える大きな胸が微かに揺れた。それだけではなく張りのあり大きなお尻も多少突き出したようにしているため、かなりセクシーなポーズになっていた。
もちろん琴海はそんなこと意識してやっている訳では無い。だからこそタチが悪いと渚は顔を赤らめて思っていた。
「あ、これこれ!ってどうしたの蝶野くん?」
「いや、なんでもないです!はい!」
胸とお尻を見てましたなんて口が裂けても言えるようなことではない。
全くこの歳になると劣情をすぐに抱いたりしてしまう。折角親切のつもりでしてくれる琴海に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「はいこれ。面白いし感動するから読んでみてね?」
渡された本というのは小説であった。それも恋愛もののようである。タイトルは《二人の距離が縮まる時》というものであった。
タイトルからして甘酸っぱいものなのだろうなと渚は思っていた。
「ふふ。読んだら感想聞かせてね?」
ドキッと思わずしてしまうほどの可愛らしい笑顔であった。
これほどの可愛らしい人にも関わらず、まだ誰とも付き合ったことがないらしいのだ。というのも親から小学校から女子校にいれられたことによるものらしいのだが。
恐らく共学であれば間違いなく大勢の人から告白されていたに違いない。
そんな人と知り合いになれて幸せ者だと渚は考えていた。
「じゃあ借りていきますね」
「うん!またね!あ、そうだ…」
カウンターにて貸出の手続きを終わったあとに何か思いついた彼女は渚を少し引き止めた。
「今度本を買いに行くんだけどついてきて貰っていいかな?」
「いいですけど…そんなに買うんですか?」
「ち、違うよ!蝶野くんの意見を聞きたいなぁって」
少し顔を赤らめて指をもじもじさせながらそう言った。そのしぐさもまた男の心をくすぐるような小悪魔のような動きに見えた。
しかし、彼女は全て無意識のうちにやっている。それが恐ろしい。
「分かりました。予定開けておきますね」
「うん!ありがとう!」
渚は借りた本を一階にある低反発ソファで読もうと考えて琴海に挨拶をして階段を下って行った。一段一段下っていく渚のTシャツの上からでも分かる鍛え上げられた逆三角形の背中を見て、顔を赤らめ彼女は見ていた。
「蝶野…くん…」
ぼそっと彼女だけにしか聞こえないような声量でそう呟いていた。
「ちっ…」
渚を見つめている琴海を後ろの本棚の影から覗き舌打ちをしている女性がいたが、フードを被っていたためにハッキリと誰なのか分かることはなかった。
ただ言えることは、その人物は渚と琴海の一連の流れを見ていたということ。それだけはわかっていたのだった。
「気安く触れるな…雌豚…」
琴海をじーっと凝視してまるで呪うかのようにそう呟いていた。
この人物の正体が誰なのか。それが分かるのはまだ先の話である。
◇◆◇◆
「ただいま…」
誰もいない部屋だが、とりあえず長年実家にいた時からの週間である挨拶をして中へと入っていく。
廊下は薄暗く、部屋も扉の隙間から差し込む光がなかったので、今日は瞬佳は来てないと感じ取った。
少し気が楽になった。たまには一人で居たい時だってある。久しぶりの一人ということに胸を膨らませて扉を開くと、そこにはあかりもつけず、コタツ付きテーブル付近に正座をして待っている瞬佳がいたのだった。
「ま、瞬佳さん!?」
「おかえり…渚くん…」
部屋が薄暗いせいもあるが表情が妙に暗かった。そして声も元気があるとは言えない。
一体どうしたのだろうか。何かあったのではと心配になってきた。
「一体どうし…」
ギュッ
突然渚は抱きしめられた。それも強く。いきなりの出来事に渚自身わけもわからずパニックになっていた。そんな中で女性特有の甘い香りや、弾力のあるボディが嫌でも自分の身体に伝わってくる。
瞬佳は琴美とは全くタイプの違う女性だが、これはこれでとても綺麗だし、大人の雰囲気のようなものが感じられる。
「ごめんね…寂しくてつい…」
「ちょ、ちょっと…!」
必死に解こうとするものの、中々逃れることはできない。力では圧倒的に上なはずの渚であるが、まるで蜘蛛の糸に絡まった蝶ように身動きが出来なかった。
そして渚のあざや傷何一つない綺麗な白い首筋に口を近づけてカプっと噛み付いた。
「なっ!何を…!!」
「はぁ…。はむ…っ。ちゅっ…」
甘噛みした後に舌などで舐め、吸血鬼のように吸い付いていた。身動きが取れない上に首筋を甘噛みされて感じてしまった渚は力を入れることが出来ずに倒れてしまった。
そのあとも、がっちりとホールドして逃がさないようにして渚を首筋を瞬佳は恍惚とした表情で堪能していた。
「や、やめ!あっ!ちょっと瞬佳さん!!」
「ごめんね。こんなことして…。でもあなたがいけないんだから…」
一体彼女に何をしたのか。皆目検討もつかない。それよりも早くここから抜け出さなければ頭がおかしくなってしまいそうであった。
とその時、瞬佳は甘噛みをやめて立ち上がった。
「ふふ。今回はこれぐらいしてあげる」
「な、なんで?こんなことを…」
先程まで吸われていた首筋のところを抑えて彼女を見上げていた。
その時の彼女の顔は満足していた顔と何かに対して怒っているような顔が入り交じったような顔をしていた。
ただハッキリとと言えるのは目は全く笑ってはいなかったことである。
「さて、ご飯の用意をしないと…」
そう言うとバックからエプロンを取り出し、身につけて台所の方へと向かっていった。
冷蔵庫から食材を出し台所に広げた。
水の溜まっていた桶に写った彼女の顔は先程とは全く異なる冷たく何人も寄せ付けないような凄まじい殺気を纏った顔をしていた。
「私の…渚くんから汚い女の匂いが…。っっ!!」
血が出るほど拳を握りしめ感情を表へとむきだしていたのだった。
一方の渚はどうして瞬佳があのような行動をとったのかわからず、ただ呆然と首筋を抑えて白い天井を見るだけであった。
渚の首筋にはくっきりと口紅と歯型の跡が残され彼女の唾液がつーっと下へと伝っていっていた。
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