第4話
マオの感情に気づいているのかいないのか、ユーシィは話を変える。
「……ここまで立案しておいて今更なのですが、僕が手伝っても良かったのでしょうか?」
「ん。手伝えないために他の魔族との交流は禁止されておるがの。手伝い自体が文面で禁止されているわけじゃないからそれは大丈夫じゃ」
違反を犯しそうな場合まず警告が入り、その警告を無視し違反を犯すと自動で強制送還されてしまう、と答えるマオ。
基本的に人間は敵対者と認識されている以上、手を組んで運営するなど想定されていない。
ルールの文面には「成人の儀式期間中には他の魔族との接触・通信を禁ずる」とある。多分次からルールが改定される。
「……そうじゃな。ここまで来たんじゃ。
「権限って……。僕そこまで信用される事しましたか?」
既にやりたい放題だった割に、常識的な返答をするユーシィ。
補助管理者は各種データなどの閲覧はできるが、あくまで補助であるため直接ダンジョンを操作することができるわけではない。しかし、出会って半日程度の相手に渡していいものでもないだろう。
「お主が来なかったら我、下手をすれば餓死しておったしな……」
違反への抵触や運営能力なしと判断される以外で強制送還されることはないと言う。飢えが運営能力なしと判断され強制送還されるかどうかははっきりしていない。ただろくに身動きが取れなくなっても強制送還されなかった以上、楽観視はできなかった。
どちらにしても完全に詰んでいたマオである。
「それに、我にもメリットは有るんじゃ。……補助管理者はダンマスに危害を加えることが出来なくなる。本来は使い魔に渡すものじゃな。儀式完了後は仲間の魔族を呼ぶというやり方もあるしの」
「ははあ、僕が貴女を傷つけないようにということですか」
「その……気を悪くしないでほしいのじゃが。いや、今更その可能性を恐れているというわけではないのじゃがな?」
しどろもどろに答えるマオに、ユーシィは笑う。
「いえ、保険をかけるのは大事だと思いますよ。そういう事なら迷うところですね。ダンジョン運営は楽しいですが、そこまで魔族に入れ込んでしまっていいのか? と思う部分もあります」
「そうじゃな。まぁあくまで我だけに対するセーフティじゃし、なんかお主なら突破できそうな気もしてしまうのだが……」
「ダンジョンからの介入でしょう? 僕だってダンジョンを直接壊せたりはしませんし、考えすぎじゃないでしょうか」
ケタ外れに大きな力で動作・制御されているのがダンジョンである。いくら人間として規格外でも越えられない壁というものはある。
ちなみに生半可な城壁であれば破砕できる模様。逆に言えばそれが出来るユーシィでさえ、ダンジョンの構造体にダメージを与えることは出来ないのだが。
「……あくまであなたに対してだけ手を出せなくなると言うことで良いのですね?」
「もちろんじゃとも。モンスターはもちろん、他の魔族に対しても効力はない。それにダンジョンの構造物と同じようにダメージが通らなくなるだけで、思考までをも縛ったりするわけではないのじゃよ」
そんな事が可能ならダンマス無敵になれるのでは? と訝しむユーシィだが、生命体に効果を発揮する場合は双方の魔力を共鳴させる必要があるという。そして、効果が大きいゆえにとても繊細な術であるため、簡単に
「それならばメリットのほうが大きそうですね。是非補助管理者権限を頂きたいところです」
「そうか! 受けてくれるのか!」
嬉しそうに契約魔法の準備をするマオ。ユーシィが提示された契約魔法の構造を読み解きながら、これならもしもの時でもやりようはいくらでもありますね……と呟いた声はマオには聞こえなかった。
☆☆☆
そしてサクサクと滞りなく契約を行い、ユーシィはマオのダンジョンの補助管理者となったのだった。
☆☆☆
「やあ、やはりデータを直接見ることが出来るのは便利ですね。捗ります」
そういいながら宙に表示される操作盤から各種項目を確認していくユーシィ。初めて見るようなシステムであるはずなのに、恐ろしく順応力が高かった。
マオはその事に若干恐怖を抱きながらも、心強さのほうが勝っていた。
「ではまずはフロアマスターの数を減らして……
壁や天井が少ない方が維持費が安いようですし、台地とか言う割に迷宮型だったの意味わからなかったのですが」
フロアマスターとはダンジョンの特定のエリアを徘徊している、近辺のモンスターとは一線を画する強さを持った存在のことだ。
比較的回避はしやすいんだが、遭遇してしまうととても危険なのだ。ダンマス側から見れば、設置コストは高いが低いリスクで探索者を屠ることが出来る。もちろんやりすぎれば探索者が近寄らなくなるのでバランスが大事だ。
もちろんマオはやりすぎていたわけなのだが。
ちなみに迷宮型というのは通路と部屋から構成される、ダンジョンとしてはオーソドックスなタイプの事だ。そして屋外型とは天井がない……露天のダンジョンである。山道や森などが代表例だ。なお屋内のはずなのに屋外型になったりはしない。洞窟の中に作りたければ天井をぶち抜こう。
なお、ダンジョンの名前は入り口に設置されている石版に書かれている。マオの趣味であろう。そういう装飾があるダンジョンは数えるほどしか無いので、魔族としても一般的ではないと思われる。
「灼熱の台地は……間違いなく誰も居ないの。とりあえず変更するための基礎設定をしておくか」
探索者が居る一帯は構造変更することは出来ない。セーフティがかかっているのだ。なぜかといえば隙間にナニかを挟んだり入ったりすると動作不良を起こしてしまうからだ。可動部分は脆いもの。
つまりは変更するならば灼熱の台地しか出来ないということだ。なんと言っても到達者はユーシィただ一人だ。そんな所に大量のフロアマスターがうろついていたのだ。誰だって呆れる。
ちなみにモンスターは操作盤から支持を出し安全なところへ誘導できるし、いざとなればキルして消滅させる事もできる。モンスターに人権はないのだ。
そんな所をチェックして回っていたユーシィが、ある機能に気がついた。
「ん……リスポーンポイント、ですか」
「設置コストはかなり高いが、設定したモンスターが倒されれば、そこから復活できるやつじゃの」
通常、モンスターは倒されると自動で再配置される。それは同じ種類の別モンスターを呼び出すものであり、モンスターの配置システムに自動で組み込まれている。再配置コストも少し安い。
一方、リスポーンポイントはまず設置コストが非常に高く、再設置コストも初期設定と同じだけかかる。その代わり、殺された本人が復活する事になる。経験を積ませたいモンスターがいる場合に利用されるものだ。
ちなみに、ダンジョンマスターは死亡した時点でこの辺りのシステムは停止してしまうので、恩恵に預かることは出来ない。
「特に知能の高いモンスターを配置していたりはしないからの。我のダンジョンには不要だと思うぞ」
「……これ、探索者にも適用できますよね」
マオが理解できない事をユーシィが言い出したのだった。
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