第4話 プレイヤー


 黒髪ツインテールが特徴のロリおじさん。


「確かに言われてみると変な気分になりますね。ありがとうございます。俺はアーサーです」


「ああ! あなたが聖剣のアーサーさんですか。今回もリセットになったということはやはりゲームクリアはできなかったんですね」


「やはり魔王討伐の壁は高かったです。ロリおじさんのブログはいつも拝見させていただいています。今回もロリおじさんの検証企画は頼りにさせてもらいますよ」


 ロリおじさん。その奇抜なネーミングセンスからは予想もつかない根気強い検証企画が人気のブロガーだ。魔物が落とす高レアなアイテムの確率検証などがあるが他のブロガーと大きく違うのは圧倒的な検証回数にある。桁がひとつふたつは違うのだ。そして、ロリおじが検証した内容は超大手の攻略ブロガーにも取り上げられるほどの正確性を誇っている。


「ふふふ。それは嬉しい限りです。ところで町はすでに見つけられましたか? 今日はもう宿屋で休んでログアウトしたいのですが、なかなか見つけられなくて……」


 終焉デスティニー・オア・救済レリーフではログアウト方法が昔懐かしい特定地点でのセーブからのログアウトになっている。そのため、ログアウトするには町にある宿屋まで行かなければならないのだ。


「いえ、俺もまだ探している最中です。お互いにマッピングしている箇所を照らし合わせてみましょう」


「そうですね。私は北に見えている山の麓あたりから奥に見える川に沿って下ってきました」


 マッピングをはじめとするサバイバル知識、これらは終焉デスティニー・オア・救済レリーフをプレイする際においては必須のプレイヤースキルになっている。マップなし、事前情報なしで再生成されるマップで町を見つけるためにベテランプレイヤーの多くは勝手に体が覚えているのだ。


「川があるんですか!? それはラッキーですね。なら、このまま下っていくのが良さそうですか?」


「はい。今ここは出現モンスター的にも低地の草原に発生するものばかり。もう少し歩いていけばそのうち見えてくると考えています」


 俺とロリおじさんの考えはほぼ一緒であった。

 古代三代文明はそれぞれ大きな川のそばで発展を続けてきた。人の生活や文化というものは「水」とともにある。

 それは終焉デスティニー・オア・救済レリーフの世界でも同じであった。特に海辺は海運によって発展していくことが簡単に予想できるため、比較的な大きな町が存在することが多い。ここまで来ると今回は相当ついてるみたいだ。

 それに二人いれば魔物の討伐速度も倍以上だ。後は町が近くにあるかどうかが鍵だが、この調子ならば問題なく到着できるはずだ。


「では、行きましょうか」



  ■■■



 俺たちが町に着いたのはすでに日が沈みかけて来たあたりであった。おおよそ十六時すぎくらいであろうか。いつも通りだと仮定してゲームの開始が十二時ちょうど。現実時間に直すと二時間ちょっとで町に到着することができた。

 とてもいいペースだ。

 この調子なら今日中に六人のうちの誰かとは合流できそうだ。そうすれば後はどうにでもできる。


 俺とロリおじさんがたどり着いた町は「エルバサ」と呼ばれる小さな港町であった。NPCと会話をしているとそれらの情報が得られた。他にも魔王の軍勢が攻め込んできていることや世界の終わりの話など何度も聞いたことのある終焉デスティニー・オア・救済レリーフの物語の流れを聞いてストーリーが進むようにしておいた。


 そこまでロリおじさんと一緒に遊んでいたが、やはり深夜の三時ほどでもありログアウトするとのことだった。別れる前にフレンド登録をしようとしたが、このダイブモード中のオプションの開き方がわからず出来ずじまいになってしまった。


 というわけで今は一人でしっとりとレベル上げをしていた。


 いつもの自分の体とは異なり「アーサー」の体は足が早く、体が軽い。剣を持ってもまるで棒切れかのように簡単に扱える。普段はあまりダイブモードのゲームをプレイすることもなかったので終焉デスティニー・オア・救済レリーフが初めてのようなものだ。


 NPCとの会話やドロップアイテムの取得に持ち物の整頓など、今まではコンピューターが行なっていたものを自分の操作で行うのはとても面倒がかかるがこの没入感は病みつきになる。


 もともと終焉デスティニー・オア・救済レリーフはリアル寄りに作られているゲームが魅力でもあった。現実の時間とリンクしてゲームの世界がリセットされるのなどもその一端であると思っている。

 そのため、今回のこのダイブモードにおいても体力ゲージ、スタミナゲージ、空腹ゲージを初めてする各種UIの多くが非表示にされているのも自分の体で感じろという運営からの道標なのかもしれない。

 そして、それらのものがなくても特段不便に感じないのはこのダイブモードのおかげだ。五感で感じるというのは今、自分が本当にゲームの中にいるのかもしれないと錯覚できるほどであり、俺はめちゃくちゃ楽しい。


「もうだいぶ倒して来たはずなのに全くレベルアップしない……それにSEもBGMも普段の終焉デスティニー・オア・救済レリーフとは全然違う」


 スタミナゲージを多く消費したのだろう。俺は額から流れる汗を拭いながら愚痴を漏らす。


 いいタイミングだったのでここでひとまず休憩とするか。


 草原に尻餅をつき上を見上げる。空はまもなく夜の帳に覆われる頃だ。あたりはすでに薄暗くそろそろたいまつの用意をしなければいけない。遠くに見えるエルバサは人々の活気に包まれており、まだまだ夜は長そうだ。


「まさか終焉デスティニー・オア・救済レリーフにダイブできる日が来るなんて誰も予想してなかっただろうな」


 俺はエルバサで購入した革袋を取り出す。中には先ほどの川で汲んできた冷たい水がたっぷりと入っている。ゆっくりと口を開き豪快に流し込んでいく。戦闘の疲れで乾いた体に染み込んでいくのが感じ取れる。


 それはまさに生きているかのようだ。


「ぷふぁー。水でさえこんなに美味しいなんて町の料理は一体どれほどなんだろうな。想像もできない」


 俺は夢心地のような感覚に包まれながらエルバサを眺めていた。あの町では一体どんな物語が待っているのだろうか。まずは船を買いたい。そのためには金が必要だし、効率的に進めるなら他の人とも協力しあう必要がある。


「明日が待ちきれないな」


 空からエルバサに光が落ちた。


 その後すぐに今まで聞いたこともないほど大きい爆発音が辺りに響いた。草木は爆風に揺られ、鳥たちや他の動物や魔物たちも一目散に逃げていった。


「はぁ!? 何が起きたんだ」


 勢いよく立ち上がり、状況を整理しようとするが全く見当がつかない。

 ぱっと見は雷が落ちたかのような印象だが、こんな雲ひとつないところでそれはおかしい。ならば……


「魔法か! おそらく上級魔法に分類されている『稲妻の槌ライトニングハンマー』。でも一体誰が……ひとまず様子を見に行かないと!」


 俺は土煙が舞う草原を大急ぎで駆け抜けた。

 『稲妻の槌ライトニングハンマー』はとても半日で取得できるような大技じゃない。となると、使ったのはNPCかチートを使ったプレイヤー、もしくは……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る