第3話 始まり
心地よい風が髪を撫で、揺れる草花が肌を擽り、燦々と降り注ぐ太陽の光が俺のまぶたを焼く。久しぶりに浴びた日の光は目に痛い。俺はまぶたの上からでも突き刺さる光に怯えながら、ゆっくりと目を開く。
そこにあったのは雲ひとつない青空であった。
「今回のスタート地点は当たりみたいだな。他の奴らとも早々に合流できそうだ」
というのも、
当然、スタートしてすぐやられてしまうプレイヤーもいる。
そういった意味では今回のような草原マップは近くに都市があることが多いため、他のプレイヤーとの合流が容易であるとされている。
俺は体を起こし、服についた雑草を手で払い一つ歩みを進めたその瞬間、このゲームがおかしいということに俺はようやく気づいた。
「なんで、俺は
ダイブ。それはまるでゲームの中に入っているかのようにゲームをプレイする画期的な発明であった。今までは空想上のものとされてきたVRMMOなどを現実のものとした。だが、このゲームはそれ以前に作られたもの。ダイブ機能がついているはずもなく、コントローラーを握りしめながらぽちぽちとボタンを押すだけだ。これは……
「ついにダイブ機能の実施か!?」
俺は溢れ出る喜びに任せて叫んだ。確かにアイウェアにはダイブするための専用装置だ。そして、先ほどのロード画面と謎の質問。あれは看板プレイヤーにデバッガーとして先行プレイさせるためか。そうすると面白いように辻褄があっていく。
「やっぱ
俺は自分の思い通りに動く「アーサー」を体感しながら急いで町へと向かった。
この喜びを早く他の誰かと分かち合いたい。その一心だ。
いろんな確認作業などはその後でも構わない。BGMは聞こえないし、その他もろもろのUIも見えていないがどうせオプションで変更できるだろう。そう思っていた。
町を目指してひたすらマップを進んでいた俺だが、ここでようやく今回初めての魔物と遭遇した。草原をプルプルと進む青い色をした流体系の魔物、スライムだ。移動速度は遅く攻撃能力も低い最弱の魔物。どうやら今回のスタート地点は相当当たりのようだ。初期装備で倒せる魔物が町までの間にいるのはスタートダッシュで大きな差をつけられる。当然倒す。
俺の今の装備はおそらく剣士系ジョブレベルIのソルジャーの初期装備のはず。銅の剣に布の服と靴。盾はおろか鎧もない状態で兵士とは笑わせてくれるが、どのジョブでも似たようなものだ。違いはせいぜい武器程度、町に見かける布の服装備の奴らは全員プレイヤーだ。初日には町が布の服だらけになってNPCと喋れないことは
とはいえ、その程度の装備でもスライムならばノーダメージで倒せる。それが最弱の所以である。
俺は腰から下げた銅の剣を鞘から引き抜き、構える。いつもならここで戦闘シーンに切り替わるが、今回からはダイブモード実装のために仕様変更があったのだろう。スライムは俺には気づかずに呑気に草を食べている。
俺はゆっくりとスライムの背後を取れるように動く、背の高い草に隠れながらじわじわとその距離を詰めていく。一歩、また一歩と距離を縮めていくがいまだに俺はスライムに気づかれていない。足音を消すように慎重に行動をし、俺は背後から特大の一撃を振り下ろす。
もちろん声は出さない。もしかしたらサイレントキル(相手に気づかれずに攻撃をするとダメージにボーナスがつくこと)が実装されているかもしれないし、それではせっかく背後をとった意味がなくなってしまう。
「ッ!? プルプルッ!」
俺の攻撃を受けたスライムは一度ひるみはしたが即座に敵を認識して攻撃行動を行ってきた。とはいえ、何百、何千と見てきた攻撃には変わりない。
その攻撃は吸い込まれるようにスライムの弱点、核へとぶつかり大ダメージになる。それがトドメとなりスライムは形を崩して倒れていく。やがて死体は光の粒となっていき消えていく。
「よし。大体今のでスライムが倒せるなら合計で10ptくらいのダメージ量は超えているか。後はサイレントキルの倍率と……」
俺はそんなことを考えながら、町を目指して草原を歩いていく。
■■■
あれからしばらくスライムを倒しながら草原を進んでいると遠くに人影が見えた。ツノウサギという草原マップではよく見かける低級の魔物と戦闘を行っているようだ。布の服を着ているからおそらくNPCではない。短剣を扱う小柄な女性キャラクターだろうか。ダイブモードではキャラクターの頭上にプレイヤーネームの表示はされていない。これでは誰が誰だか判断するのは難しそうだな。
これは運営に文句を言ってやろうと思っていると、彼女は慣れた手つきでツノウサギを討伐していた。
「こんばんは、少しお話しませんか?」
俺は手を振りながら呼びかけると彼女も気さくに手を振り返して応じてくれた。
「ゲームではまだ明るいのにこんばんはって、なんだか面白いですね。私はロリおじというものです。是非、よろしくお願いします」
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