第2話 終焉と救済
ゆっくりとアイウェアを外し、手元の懐かしいパッケージを見る。
このゲームは発売から二十年も経っているオンラインRPGゲームで、ゲームの中にダイブ出来るようになった今でも現役だ。
ある日突然現れた魔王の襲撃により大打撃を受けた人間たち。王様は魔王討伐の為に世界各地から腕利きを集める。俺たちプレイヤーもこの集められたうちの一人で「魔王は今日から四年後に世界を滅ぼすと言っておる。それまでにかの魔王を打ち滅ぼしてくれ」と王様に告げられてストーリーが始まる。
この昔懐かしいオンラインRPGゲームが二十年も続けていられるのは決して長く愛されているからではない。
まだ誰もこのゲームをクリアしたことがないからだ。
オンラインゲームなんだから当たり前と思うかもしれないがそれは違う。
このゲームは二年間ごとにリセットされる。
王様は嘘などつかない。ゲーム内での四年がリアルタイムで二年なのだ。
レベル、スキル、装備、アイテムを初期状態に、ストーリーとマップも全くの別物になる。つまり制限時間内にラスボスである魔王を倒さなければならないというわけだ。
唯一の救いは課金アイテムの類が少ないことだろう。あるのは使用すると一定時間、獲得経験値と獲得
それでもレベルに上限はあるし、終盤になればGなんて余るほどあるため攻略に必須ではない。
そんなゲームで俺たち六人はパーティーを組んでいて、今日の通算十回目の世界崩壊、DRの二十周年を迎える前日を最終決戦の日と定めていた。
今までの経験からストーリー上で一度も消えたことがない装備やアイテムは攻略に必須とされていて、それは聖剣エクスカリバーや妖刀マサムネといった最強装備に世界樹のしずくだ。もちろん魔王も毎回変わるのであの挑戦は何度目かも忘れた最後の一回だ。事前チェックは万全。
耐久。ハメ技。試せることは全て試したが、どれも魔王を倒すことは叶わなかった。そして、俺らが導き出した答えは初撃必殺以外は死。
六人全員が最高レベルまで上げ、考えられる最強の装備を身に着け、計算し尽された初撃必殺のための最高のコンビネーションだった。
それでも俺たちは魔王に勝てなかった。
勝てないのはもう運営の調整ミスか何か重大な見落としをしているかの二択だ。
そんなことを考えていると聞こえていたパソコンのファンの音が止まり、GAMEOVERと表示されていた画面も真っ暗になった。
すぐさまコンセントや配線を確認するが異常は見当たらない。
「停電か?」
部屋を出て確認に行くと案の定ブレーカーが落ちていた。手早く作業をこなし部屋に戻る。いつもなら二十五時になってDRがリセットされた瞬間に始めるが、今回ばかりはそのやる気もなくパソコンを消そうと思った。
そのとき俺の目にそれが映った。
『 魔王を倒したくはないか?
YES/NO 』
時刻はまだ日付が変わってから少ししか経っていない。次のバージョンに向けてアップデートをしているはずなのに表示されたそれは不可解でしかなかった。
それでも少し興味を惹かれている自分がいる。
どうせ少しの時間しかとられないだろうと思い、マウスを操作し「YES」をクリックする。
すると、即座に次のメッセージが表示される。
『 そのために人生を捨てる覚悟はあるか?
YES/NO 』
「すでに捨ててるようなもんなんだよな……」
マウスを操作し「YES」をクリックするとまたすぐにメッセージが表示される。
『 異世界という概念を信じるか?
YES/NO 』
異世界って、剣と魔法の世界とかそういうことか?
そんな世界があったら行ってみたいよな。
マウスを操作し「YES」をクリックするとまたすぐにメッセージが表示される。
『
YES/NO 』
考える必要もなく即座にマウスを操作し「YES」をクリックする。
しかし、今度はなかなか次のメッセージが表示されない。
そんな空白の時間でつい余計なことを考えてしまう。
小さいころから絵本や物語が好きでカッコいい主人公に憧れたこと。
実力もないのに目立ちたがろうとして他人に疎まれいじめられるようになったこと。中学になって何か変わるかもとも思ったが、いつも通りにいじめられる日々が続いたこと。ある日を境に学校には行かなくなったこと。
引きこもる日々で
しかし、ゲームはクリア出来ず俺はずっと足踏みをしてるだけだった。
「親はこんな引きこもりなんかいない方がいいのかな……」
『 本当に人生を捨てる覚悟はあるか?
YES/NO 』
二回目だがさっきとは違い、何とも言えない重さがある気がする。
それでもマウスをゆっくりと操作し「YES」にカーソルを合わせ慎重にクリックした。
『 コントローラーをとってアイウェアをつけて
ゲームが指示をしてくるなんて初めてだ。さきほどの問答で目も冴えてきてしまったのでなんとなく指示通りゲームを始めると、そこには馴染み深いキャラクタークリエイト画面が出てきた。
セーブデータをロードすると画面にはいつも使っている金髪碧眼で美形の男キャラ「アーサー」が表示されていた。今の自分とは全く違うゲームの中だけの理想の姿。仲間と喋れるのも「アーサー」の実力に自信があるからなせる業だ。
何もいじらずに決定するが次に表示されたのは初めて見る画面だ。
DRではバルと呼ばれている魔物が跳ねるロード画面。バルはDRのマスコットキャラクターで可愛らしい丸いフォルムにデフォルメされた魔物っぽさ、背中から小さく生えた悪魔の翼と頭の角はこいつのアイデンティティと言えるだろう。それだけならいつもと変わらないが、そこには今さっき俺が作ったばかりのアーサーが一緒に走っていた。
看板プレイヤーのキャラを立てて俺たちにまだ続けてほしいんだろうな。
そんなことを考えながらロード画面を眺めていると一人また一人とロード画面にキャラが増えていく。
全プレイヤー中最高の攻撃力を誇る、厨二病プレイヤーのシュン。
デュオ大会やイベントでは負けなしのコンビネーション抜群、双子兄弟プレイヤーのエルとラミ。
全てのプレイヤーに最新情報を届ける、攻略ブロガー最大手のヴァイオレット。
プレイ時間は最長。時代を変える新戦術や新武具を閃く、引きこもりプレイヤーのアステラ。
当然のように俺たち六人の姿はあった。
他にも超人気YouTuberのリンリンやDR公式プレイヤーのポイックリン、運営ではないかと噂されているタローなど数多くのキャラクターが画面に増えていく。その数はざっと百は超えているであろう。その誰もがDRを十年間にもわたって支えてきた看板プレイヤーたちである。
その中に俺がいることがどこか嬉しかった。
そして、俺たちの
■■■
翌日明朝のニュース番組。画面に映るキャスターが深刻な面持ちで今朝起きた大事件の速報を伝える。
「速報です。昨夜未明から今朝にかけて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます