デスティニー・オア・レリーフ
歩兵
第1話 終焉か救済
「皆、待たせたな」
アーサーは大扉の前で待っている仲間たちへと呼びかけた。
「なーにこれくらい大したもんでもないよ。ね、アステラちゃん」
「ヴァイオレットの言う通りね。ちょっと遅れるくらいがちょうどいいわ」
「ヒーローは遅れてやってくるってか? おかげで俺はもう退屈しちまったよ」
「ラミ兄様、私もシュン同様退屈してるのですわ」
「エル、アーサーも来たんだ。もうすぐさ」
仲間はこれからの戦いに備え、体をほぐしたり武器の手入れをしている。
アーサーはそんな仲間たちの間を抜け大扉の前に立つ。
彼の後ろには仲間たちが続く。
双剣、銃、刀、弓、槍。各々武器を構えアーサーが扉を開くその時を待っている。
「さぁ、行こうか。
アーサーが扉に手を触れると彼が押すまでもなく扉はひとりでに玉座の間への道を開けた。そこは炎の波が揺らめく灼熱の海が広がり、外にいても息をすれば喉が焼けそうな熱さだ。
後方から短い黒髪の少女ヴァイオレットがアーサーの前に歩み出てくる。
「世界樹のしずくよ。かの王までへの道を開き給え」
彼女の持った小瓶から零れたしずくは玉座までの炎の海を割った。
「エル行くぞ」
「ええ、ラミ兄様」
お揃いの金髪兄妹は槍と弓矢を片手にヴァイオレットが作った道を駆けていく。
「鎧を貫け――」
「
「駆け抜けろ――」
「
ラミが放った槍は燃える玉座に鎮座する魔王バルディラの心の臓に目掛けて真っすぐに放たれた。その速度は尋常ではなく
しかし、その槍が奴の胸に突き立つことはない。奴は左手で槍を掴みその攻撃を防いだのだった。
「我のもとまで攻撃を届けたのは久方ぶりだな」
そしてエルにより追撃。放たれた矢は魔王バルディラの真上の天井に突き立った。
決してエルが狙いを外したのではない。
その矢を起点に転移魔法が発動。アーサーとシュン、アステラとヴァイオレットを転移させる。
褐色の巨躯を誇る赤髪の魔王バルディラは右手に漆黒の鞘に収まる剣を携え、玉座から立ち上がる。
四人が落下している最中ヴァイオレットが加速し、先んじて魔王バルディラに近づく。
「世界樹のしずくよ。我らにかの王を打ち倒すだけの力を与え給え」
空中で小瓶を割り、そのしずくが四人に降りかかる。ヴァイオレットは続いて二対の双頭剣を構える。
「切り刻め――」
「隠形流奥義四剣乱れ咲き!!!」
落下の勢いに負けず空中で完璧な姿勢制御を行い、両手に構えた双頭剣で魔王バルディラとすれ違う一瞬の間に十六回の連撃を叩き込んだ。
その多くは奴の鎧に阻まれるもいくつか手ごたえを感じる攻撃を浴びせた。
ヴァイオレットの攻撃の間にアステラが魔術を構成する。
その魔術はアステラの持つ銃口により方向性を定められる。
「我に手傷まで負わせるか見事なものだ。次はこちらから行くとするか」
魔王バルディラが左手を上げゆっくりと鞘を抜こうとしたその時……
「穿て――」
極限まで練り上げられた魔力は長い銃身に刻まれたおびただしい数の魔術文字によりそのエネルギーを増大させる。
「
「っ!?」
その雷光は魔王バルディラの左手を正確に貫く。
『行くぞ! バルディラ!』
「
「
長い銀髪を靡かせるアステラの狙撃により奴が鞘を抜くのを少しでも遅らせることが出来る。さらに雷の魔術の付随効果、麻痺によりしばらくの間バルディラは動けない。
――はずだった。
魔王バルディラは痛めた左手や痺れる体をものともせず漆黒の鞘から剣を抜き放った。
その剣も鞘同様に漆黒。
唯一違う点は、剣から黒い炎が立ち昇っていることだ。
炎はまるで全てを飲み込む闇や怨念と言ったものが炎の形を保っただけにも見える冷たさを醸し出している。
「世界を焼き払う地獄の火炎を秘める
『
「――劫火」
アーサーとシュン、バルディラの攻撃は拮抗していた。
しかし、それも時間の問題。バルディラの黒い炎は二人の体を着実に蝕んでいる。
「くそっ!」
「くっ……」
ついに炎が二人を飲み込む。それどころか黒い炎は部屋中の炎の海さえも飲み込み、アーサーたち六人を一人残らず飲み込んだ。
魔王バルディラの左手はほぼ機能不能、麻痺を跳ね除け、アーサーの
これが魔王。世界に終焉を齎すものの実力。
世界は拡大する黒い炎に焼かれその全てを失った。
■■■
GAMEOVER。
でかでかと画面上にはその文言が記載されていた。これで記念すべき通算十回目の
「ああああ――――……また負けた」
俺は握りしめていたコントローラーを力なく手放す。コントローラーは床に落ちると、ドンッ!カラランと音を立てて転がっていった。それからしばらくはウィーンウィーンというパソコンのファンが回る音だけが部屋に響く。
「もうこのゲームを止めようかな」
何の気もなく発した言葉が自分の肩の荷を和らげてくれた気がする。
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