第七章 闇に灯る光(3)

 公園で風に吹かれながらひたすら自分が持っているという光と向き合ってみた。だが、どれだけ考えようが何一つとして光に至らない。

 いや、そう簡単に結果がでたらそれこそ、今までの苦労などなかっただろう。


 顔を出していた月明かりはまた雲に隠れ光を失っている。でも……よくよく考えたら、月自体は今でもなお、光をもっているのだよな。

 雲という闇に包まれ見えないがその奥では輝いている。同じように奥で輝いている光を……見つけることができたらいいのか。


「ああ、光なんて……わたしにあるのかな?」


 いくら奥に目を向けても感じるのはやはり闇ばかり。いっこうに光は見えてこなかった。闇の中から光を見つけることが途方もなく難しいものなのだと実感するばかり。


 光……ああ、欲しい。あの輝く光が……欲しいのに!


 でもそもそも……なぜ光を欲しいと思ったのだろう。それは……そうだ、ブラン、奴が放つ光を見たときだ。あの光の一度見て……惹かれていた。あの美しい輝きを放つ光に……惹かれていた。欲しいと思った、あの光を。いや、それだけじゃない。

 もしからしたら、奴の輝く光が自分の奥に潜む光と共鳴していたのかも……。だからこそ、あの光にただの光とは違う何かを感じ取ったのだろう。


「あの光だ。あの光が……欲しい……」


 いや……違うのかな。本当にそうなのかな?


「わたしは光に惹かれているのか? 本当に欲しいのは……光で……いいのか?」


 ……違う気がする。いや……違う。


 わたしはブランが放つ輝く光に惹かれていた以上に……輝く光を放つブランに……惹かれていたのかも。そうだ……光じゃない、光を放つブランが欲しいのだ。


 あの光に……ブランから放たれるあの光に近づきたい。そしてブランの立っている世界に近づきたい。ブランに近づきたい。ブランの横で立ち並びたい。彼のように光り輝く存在となって……ブランと一緒になりたい!


「わたしは……!」


 自分は……


「わたしは……!!」


 その時、母が言っていたセリフが脳裏をよぎった。


――例えるなら……まるで恋する乙女――


「わたしは……!!!!」


 ブランに恋している! わたしのこの感情は……わたしのこの光を欲するこの思いは……すべて……恋という光がもたらしたもの。


 そう気づいた瞬間だった。胸の奥で何かが脈打った。ドクンと胸の奥がざわざわとする。でも、それは闇の鼓動でもなければ今まで起きていた光による苦しみなどではない。それは……まるで母に抱きしめられていた時のように……あのブランが放つ光のように……とても……とても暖かい。


 光だ……自分の中に……光がある。見つかった、これこそが光だ。


「これが……本物の光!」


 今、自分の光を掴み取った。それは紛れもなく自分の奥にあった光。誰かから奪い取って手に入れたものじゃない光。


 誰かから奪い取って手に入れるものじゃない、自ら灯すものこそが光だ。いや、すでに体の中に灯されていたのだ。闇に隠れて見えなかったが、確かに灯されていた。あとは……自分の奥で小さく強く輝いている光をしっかり自分自身で見つめ……


「解き放つだけ!」


 ついに胸が暖かい光に包まれだした。たちまちその光が全身に向かって流れ出す。自分自身で灯し、自分自身で輝かせている光だ。ああ、暖かい、本当に暖かい。そして、とてもまぶしくて……美しくきれい。


 それに合わせたように月明かりもまた再び顔を出し始めた。その月明かりが闇を照らすように自分の光もまた公園に広がる暗闇を照らしていく。

 いや、いまや月以上に自分は輝いているのだ。月はしょせん太陽の力を借りて輝くが……、自分の光は……自分から輝くもの。


「わたしは太陽だ!」


 闇を放つよりもさらに心地よい光があふれ出す。それに従い長い黒髪が風になびき揺れながら白色へと変化していく。二割、三割、四割と美しい白い髪へと変貌していった。光となっていった。


「光だ……光だ! わたしは……本当の光を……手に入れたんだ!!」

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