第六章 光に絶望し闇に希望を知る(4)

 一度ちらりと後ろを確認し確かにビアンカが逃げたことを確認するとさっき刺した剣をもう一度握りしめた。そこにはまだどす黒い光が残り続けている。


 でも、今度は右手に闇の力を注いでいく。今度は自分の心の奥からあふれ出した正真正銘、自分の闇。その闇が右手を伝わり、剣に注ぎ込まれる。剣はその闇に浄化され、薄汚い光の灯は消え、深くきれいな闇のオーラを放ち始めた。


「ふぅ……これがおれの闇だ。ビアンカを捨ててしまったが……それでも……おれが本当に欲しかった……闇。これでノワールに近づける」


 そうして剣先をアルブスへと向けた。


「そうか、君は本当に裏切っていたんだね。なら、さっさと君を始末しようか。律儀に待ってあげたんだから……もういいよね、殺しても。速く殺して逃げたビアンカも口封じのためにギルドにつくまでに始末しなきゃ」


「あんた、どこまでもゲスいんだな」


「いやいや、ずっと茶番を待ってあげたんだよ。あまりに君のほざく言葉が面白くてね。笑わせてもらったよ。さあ、君も僕の英雄となるための道となるが……ウッ」


 ブランはアルブスの一言が終わるよりも先に一筋の一線をつき放った。剣先から伸びた黒い閃光は的確にアルブスの心臓を貫きえぐった。


「わるいな先輩、おれは待てなかった」


「き……きぃみ……ガァハ……!?」


 黒い閃光が消えると同時にアルブスの足ががたりと崩れる。それに伴い、口から赤い液体がぽたりとこぼれ始めた。ゆっくりアルブスのほうへ足を歩める。当のアルブスは立つ力もなくなったが地面に崩れ落ちた。


「ブラン……それは……ないんじゃ……ない……かな?」


「言ったでしょう、おれは……闇を受け入れたんで」


「……ククク、グゥ……本当に……面白いこと言うね……」


「その人を蔑んで見る性格があなたの敗因です。思えば初めて会った時からあなたはおれのことを蔑んで邪魔者だという目で見ていたんですよね。それを見抜けなかった自分のまあ、情けないですよ」


「ブラン……ク……ソ……」


 その言葉を最後にアルブスの動きが完全に泊まった。静かに目を閉じて深い眠りについたアルブスをよそにブランはゆっくりと近くに有る池に近づいた。


 水面が実に静か。水面と地面の境目に立ち、音も波も立てないようにしゃがみこむ。まるで月明かりがタイミングを図ってくれたように顔を出し、水面を照らし始めた。


 それに合わせ自分の髪の毛も水面に映る。その髪は……なんとも美しい黒い色をしていた。ほとんど……七割以上が黒い髪になっている。時期の残りの白い髪も黒へと変わるだろう。


 だが、本当の闇を手に入れるために……ビアンカには……。


「ビアンカ……悪かったな」


 もう聞こえることもないだろう一声を掛け、最後にもう一度決意の意思を声に出すため、空気を大きく吸い込んだ。そして月明かりを背に夜に広がる深く果てしなく続く暗闇の向こうに視線を向けた。


「ノワール……今すぐ、お前のところに行く」

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