第五章 増大する闇と失う光(3)
「お父さま……とやかくは言わない、そうおっしゃいましたよね?」
「言った、言ったが……なぜお前は破滅を求める!? お前をそこまでさせるのは一体何なんだ? 光がお前に何を教えた!?」
怒る父に対しても無言で目を合わせ続けた。でも、父の質問に対して答えることはできない。その圧倒的威圧に押されているというのもあるが、何より、なぜと問われればそれはまるで分らないからだ。
ただ、ブランの光からは言葉で説明できない何かを感じ、とにかく求めなくてはいけない、そんな気がする。そこに、理由なんてものはないのだろう。
ただ、そこに惹かれる光があるから……というだけだ。
「お前はおれたち親の気持ちが分からんのか!? とやかく言わないと言ったが、それが本当に自分勝手で自分がしたいようにしたらいいと望んでいることだと思ったのか!? だというのなら、もう一度考え直せ!」
「……じゃあ、はっきり言えばいいじゃないですか! 光はやめろ、光に触れるな、近づくな。闇のままでいればいいって。ただし、もしお父さまが本当にそう発言したならばわたしは怒りにまかせてここを出ていく自信がありますけどね」
「な!? ノワール、何を言っているのですか。すぐに訂正しなさい。お父さまに謝りなさい」
「いいや、謝りません。わたしには今ここに譲れないものがありますから」
その途端、部屋の中にある空気が大きく振動したような気がした。父から容赦なく解き放たれた闇が黒い風となりノワールの髪やカーテン、使用人の衣服を大きく揺らす。ガラスまでもが闇の存在に耐えきれず悲鳴のようにガタガタと音を鳴らした。
「ああ、そうだ。光に近づこうとするな、ノワール。光に近づけばお前の中にあるきれいな闇がどんどん汚れていく。光はさっさとすべて……捨て去れ!」
その父からのセリフを聞いてもう、決心するためのトリガー容赦なく放たれたと感じ音も立てずに立ち上がった。
「……お父さま、言いましたよね。それを言えばわたしは出ていきますと」
「いや、それは許さん」
「なんて自分勝手な」
「それはお前だろうが!」
続いて父もまた乱暴に立ち上がった。そんな父の姿にこぶしを強く握りしめ対抗の意思を持ち続ける。まさにノワールと父との間は火花散る同然の状況。
「ノワール、いいから。落ち着きましょう、ね? ほら、座って。食事を」
「お母さま、これはわたしの問題です」
あわてて近寄ってくる母を押しとどめ、父と向き合う。
「わたしは意地でも光を求めたい。わたしはあの奴の放つ光を見ると胸の奥がグッとざわつくんです。これはビアンカを取り込んでいるからだけではない。あの光を見ると……心が躍るんです。
わたしはあの光が欲しい。求めなくてはいけない。そう思うんです。そうして求め続けた結果、もし破滅するのだとしても……それでいい」
「お前は……何もわかっていない。その言葉が意味することを……何ひとつとして分かっていない!」
「お父さまも、わたしの言葉の意味を理解できないでしょう。それと同じですよ」
「とことんわからない奴だな!」
父がついに席を離れこちらに歩きよってくる。ノワールもそれに対し消して逃げまいと足に踏ん張りを効かせ続ける。父はノワールの目の前にまで来るのかと思ったが、それよりも先に間にいる母がすっと立ち上がった。
「いい加減にしなさい、ふたりとも!」
母から放たれた闇が父の進行を妨げ、ノワール自身もその圧力に負け少し後退。手で母から放たれた闇の威圧を庇い守る。
「あなた、もう少し冷静になってください」
母は一度父に顔を向けそういったと思えば今度はノワールのほうへ向きなおる。
「あなたもです。なぜ、そこまで火に油を注ぐような言動を行うのです!?」
「別に……そのようなつもりはありません。ただ、結果的に油を注いでいるだけで、これは心の底から思っている本心を言っているにすぎません」
「いい加減になさい、そう……いいましたよね!」
今度は母から強烈な闇をくらってしまった。母から放たれた闇は瞬く間にノワールの体にまとわりつき、硬直状態に陥ってしまう。
「お、お母さま!?」
「あなたは少しおとなしくしていなさい」
その張り上げられた声と共に、闇の縛りが一気に強まる。それに対し父は平然とした顔でまた座り込んだ。だが、こちらを見る目は何一つ変わっていない。威圧的なまなざしは今なお、ノワールに突き刺さっている。
二人から放たれる闇が部屋にどんどん充満していく。この空気に耐えかねたのかは知らないが、一部の使用人は部屋を出ていき、他の人もうずくまりかけている。本当にとんでもない闇の力だ、その力の圧力で押しつぶされそう。
そしてそんな闇は……ノワールの気分を悪くする。
「ああ……なんでかなぁ……なんで……わたしの周りは闇ばっかりあふれているのだろう。本当に汚らわしい……実に汚らわしい……わたしに……」
こぶしに力をふるわせていく。胸の奥にある光がうずくのを抑え込もうともせず、一気に解放させていく。そのまま、自身に眠る闇の力と共に放出した。
「わたしに……闇ばっかり見せつけるな!!」
母からもらった闇の拘束を弾き飛ばす。胸のあたりが異様なまでに熱く、ほとんどが黒だが一部だけ白に輝くオーラがこの部屋に充満していた汚い闇を押し返していく。だが、すぐにビアンカの光がノワールに対し反発を起こし始め、胸のあたりが苦しくなり始めてしまった。
だが、そこでうずくまったりして苦しむ素振りでも見せたら、ここにいる人たちの思うつぼ。この光を……手放すわけにはいかない。
「な!? ノワール……何をするつもりですか?」
拘束を破られたことか、ここまで親に対し徹底的に反発したことか、驚いた様子で威圧を向けてくる母。父は無言でこちらに向かって闇の力を放とうとしている。
「言いましたよね。光を失うぐらいなら破滅を選ぶ。光を否定されるなら……わたしはここを出ていきます」
「お前の勝手が……許されると思っているのか!?」
父の手から放たれる闇の塊。その塊に向かって正面から見据えた。
「ハァ!!」
さらに光を光が望むがまま解放。その力にまみれ闇が粉砕。
「ノワール……あなた……」
「許される許されないじゃない……わたしは……わたしが決めた道を行くまでです」
解放したのをトリガーにしたか、ビアンカの光が暴走しそう。胸のあたりに広がる痛みは果てしなく広がっていく。だが、それでもグッと光をおしこめ、この部屋のドアまで行くと、乱暴に開けすぐさまこの場所を立ち去った。
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