第8話 崩れる関係
「昨日の電話はこういうことだったのね」
咲良ちゃんは僕を睨んだ。優しいいつもの眼差しは欠片もない。
「それは……」
「詳しく教えてなんて言わないわ。真雪とは縁を切るから」
「どうして? 今まですごく仲よかったじゃないか。それを急に……」
「私のことを覚えてない人と恋仲になるなんてできるわけないでしょ」
「それはそうだけど、これはわざとじゃないし……」
「じゃあ、そんなやつを支えろって言うの? 私、そんなに強い人間じゃないわ。これ以上傷つくのはごめんよ」
咲良ちゃんはさらに僕を睨みつけると、右手を開いて振り上げた。そして、僕の左頬を思い切り叩いた。
「これであなたとも縁を切る。もう二度と私に近づかないで」
咲良ちゃんは僕に次のセリフを言わせる間もなく、去って行った。
頬が痛い。
叩かれたからではないのは、よく分かっている。
やはり記憶のことを真雪には話すことはできない。これは僕の胸の中だけに留めておくべきだ。真雪が知る必要はない。
真雪が傷つくのであれば、僕が代わりになる。
「湊、いるか?」
真雪の声がした。時計を見てみると、授業が始まる時間だった。僕を探しているらしい。
「ここにいるよ」
応えると、真雪が開いた扉から顔を出した。
「お、いたいた。何してるんだよ、こんなところで。授業だぞ」
「ごめん。昨日、ここで自習して忘れ物しちゃったんだ」
「見つかったのか?」
「うん。今から帰るところだったんだ」
「じゃあ早く行こうぜ」
「うん」
僕は赤くなった頬を隠すように左手を添えて、教室を出た。もうとっくに咲良ちゃんの姿はなくて、静かな廊下が延びていた。
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