第15話
オレはリカの乳首を舐めてるときにふと思った。このままオレがなにも言わないままだと、もう、この子とは連絡がつかなくなるんだろう。たとえ本質が淫乱な女の子でも、セックスだけが目当ての男を嫌がるものなのだ。また何回もリカと性行為がしたい。そのためにはぜひとも恋人になってもらわねば。
「あのさあ……オレたち、恋人同士にならないか?」
乳首を舐めるのをふと中断し、オレはリカに告白した。なんとも間の抜けたタイミング。
「え〜? なに〜? なんか言った〜? 聞こえなーい」
リカは笑顔で返した。どういう意図での態度かわかんなかったので、『冗談冗談』とも『本気やねん!』とも言わず、とりあえずオレは再び乳首を舐めた。
二発目を終え、服を着るころにはもう十一時になっていた。
「さっきエッチの途中になにか言った?」
ハッキリと聞こえていたくせに……明らかにオレをおちょくっている。
「いやあ、別にぃ」
ふて腐れてみるオレ。
「やっぱつきあうとなるとね、いろいろ考えちゃうんだ。十代と違って二三にもなるとね。たとえば二年つきあってそれで別れるとするでしょ? そしたら私、ニ五になって年を喰うだけじゃん! そうなると、その二年はいったいなんなの? もったいないって感じじゃない? 二年後には周りもいっぱい結婚してておかしくない年だしさ……」
う、君と二年もつきあおうなんて考えてもなかったです。ただ何ヶ月かエッチに困らなきゃあ、それでいいやとしか考えてませんでした。
「ふ、ふーん、な、なるほどなぁ。そーかぁ……」
「私ね、仕事は土日が休みなんだ。今度は泊まりに来れるときに来るよ」
「え! ほんと? いつにしよっか?」
「明後日休みだから、明日の夜また部屋に遊びに行っていい?」
う! 明日はこれまた、別のふれワードガール(川口在住のOL21才)と会う予定が入っている。
「いや、ごめん。明日は無理やわ。関西時代の友達と久々に会う予定があるねん」
二日連続で同じ人と会う習慣はオレにはなかった。
「土曜日の夜はアカンの?」とオレは聞いてみた。
「うん、日曜日に引っ越しだから荷物の整理とかが……」
「そうかー、んじゃ平日の夕方からは? オレが三時でリカは四時にバイト終わるんやろ?」
「うん、まあそうだけど」
「じゃあ火曜は? 用事ない? んじゃ火曜会お! 決まり!」
「火曜ってまだまだじゃない? だって五日後だよ」
リカは腑に落ちない顔をしている。
駅までの道、リカは黙って腕をからめてきた。あぁ、セックスだけではなくこういうのもいい。まるですでに恋人同士みたいだ。この関係が知らない間に空中分解してしまわないように、ぜひとも近いうちにオレの告白を受理してもらわなければならない。
「一人暮らしだからちゃんとしたもの食べてないでしょ? 今度なにか作ってあげるよ」とリカ。
言われて嬉しいセリフだったが、さすがに彼女と家庭を持ちたいとまではまだ思わなかった。
リカが切符を買って、すぐに電車がきた。
「あ、火、火曜日どうしよ? 何時にする?」
彼女の姿が消える前に、次に会えるという約束を手に入れておきたい。
「とりあえず家に着いたら電話するよぉ」
リカは足速に電車に乗りこんでいった。
家に着いたら電話する……と彼女は言ったけど、自分の部屋にもどったとたん、激烈に眠くなった。二発もヤッたのがこたえたんだろうか? もういい、寝てしまえ。別に今日、電話で決めなきゃならないことじゃない。火曜日までまだ時間がある。
オレは深い眠りに落ちた。
しまった! と朝起きてから後悔した。
『せっかく電話したのに出ないってどういうこと?』
と留守電に入ってるんじゃないか?
怒らせてたらまずいなぁ……とおそるおそる携帯電話を見る。が、リカからは電話がかかってきてなかったみたいだ。オレはものすごく恐ろしくなった。彼女とはもう二度と会えないんじゃないかという気分になった。突然に出会う人は突然にいなくなってもおかしくない。
その日の仕事中は妙にそわそわして落ち着かなかった。電話をかけたかったが、彼女も仕事中のはずなのでやめておいた。
リカの仕事が終わる四時すぎに電話をかけたが圏外になっていた。五時半と六時半にかけても圏外だった。もう彼女と話す機会すらないのだろうか? オレからの電話を着信拒否に設定したのだろうか?
七時に池袋でOLと待ち合わせだというのに、そっちの電話もつながらなかった。久々にドタキャンされた。これならリカと会う事にしておけばよかった。このまま部屋に戻る気にはなれなかったので、オレは一人で居酒屋に入った。
頻繁に携帯電話をチェックした。が、リカからの電話はかかってきていない。昨日の今日だぞ、どうしてオレはこんなに彼女の声が聞きたいんだ? そんなに好きだったか? 違う、また会えるのか会えないかどうなのか? その答えを早く知りたいだけなんだ、たぶん。
「あ、もしもし!」
八時四十分、やっと電話が繋がった。
「なんか周り騒がしくない? 声、聞こえにくいんだけど」とリカ。
「うん、えと。今、ちょっと友達と居酒屋におるねん」
「へぇ、友達と飲むお金や時間はあるんだぁ。私の時は部屋で安上がりにすましたのにね」
「う……ん、昨日ちゃんと言うたやん。んでさぁ、火曜日どうする?」
「ちょっと待ってよ、別に火曜日オッケーなんて言ってないよ。こっちにも都合があるんだからさ」
「え、でも空いてるって言ってなかった?」
「こっちも体あんまり強くないし、火曜日だと次の日、仕事だし、ユウジは自分の都合でばかりモノを言ってるじゃない」
くそ、周りがガヤガヤしてうるさい。雑音が邪魔だ。なんでオレは一人で居酒屋なんかにいるんだ?
「んと、ごめん。とりあえず……電話切るね」
あんなややこしい女はもういい、面倒だ。その後、十時まで居酒屋にいた。飲めないくせに飲んでみた。くだをまく相手もいない。ちっとも酔っぱらえなかったし楽しくもなかった。けど、電車に揺られ家に着くころには、またリカと会いたくなっていた。
頭の中でセリフを確認し、復唱してから、オレはリカに電話した。
「……んとさあ、約束っていうのがないと不安になるやん? 会う約束してないのと約束してるんやったら、またその人に会える可能性が全く違うやん? だから約束をしとかないともうリカに会えないような気がしてさ。だからオレ、焦ってて。あんな電話をかけてしまってんやん……」
「それで? 結局なにが言いたいわけ?」とリカ。
ん……と。だからつまり……えと。
「だからといって友達なんかといるときに電話しなくていいじゃない! けっこうナイーヴな人かと最初は思ってたけど、他人にたいしては図太いんだね」
ツー、ツー、ツー……。電話はいきなり切れた。いや、正確には切られたと言うべきだ。
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