6章 恋はあせらず

第14話

 梅雨もあけた。

 七月も残り五日になるというのに、何も起こる気配なし。ノストラダムスの預言も結局でたらめだったみたいだ。オレは大いに焦り始めた。今まで人生をさぼってきて損したではないか! なにか目標を見つけなければならないような気がした。だが、毎日頻繁に知らない女性から電話が鳴りまくる日々、目標など見つけるヒマはなかった。

 

 アキとの事件があってから、オレは考えた。

あの時、あれだけ性行為ができそうな雰囲気だったのに、できなかった理由……それは好きとキスの順序が逆だったからだ。

 あの時、ちゃんとしたムードを作り、三回目のデートくらいで告白し、四回目でキス、五回目でセックス…段階を踏めばうまくいったはずさ。

 今までは下手な鉄砲数撃ちゃ当たるという考え方だったが、今度からは会う人間をしぼって、それでもって素敵な恋人を作ってしまおう。狩猟より、農耕に進化! 恋人を作ってしまえば、性行為ができなくて飢える心配もない。恋人がいるならば、定期的に性行為ができる!

 京都のあの人のことなんて関係ない。どうせ離れているんだからな、オレは恋人を作るぞ! そもそもこの雑誌に投稿してる人達はたいてい彼氏、彼女を募集してるんだ。


     ※


「あの、雑誌見たんだけど。あ、名前はリカ! ねぇ、板橋に住んでるって雑誌に書いてたけど板橋のどこなの?」

「中板橋やけど」

「そっかぁ! 中板橋かぁ、わたしは成増に住んでるんだ。近いね! そっちまで十分くらいで行けるじゃん! 今から行ってもいい?」

「うん、全然オッケー!」

「じゃあね、え、と……八時半頃に行くね」

 今は七時。急いでヒゲを剃り、部屋に掃除機をかける。気がつくといい時間、オレは駅に向かった。

 パン屋でバイトの22才。まぁレジ専門だから見た目は悪くないでしょう、と相変わらずオレはサービス業に弱い。どんな子だろうか?

 またもや、いつもと同じパターンで女の子と会う事になった。ひとつ気をつけなくちゃならないのは、無理して性行為をしようとするな、まずは彼女にしてしまえという事だ。


 駅前には若い女は一人しか立っていない。あれだな。よし! お姉ギャル系の服装だ! 近くで見てみるに……顔もパッチリしてて悪くない。体もほっそりとしてるぞ。うん、たぶん肌の露出に惑わされてはいない、実際に今まで会ったふれワードガールの中でも可愛い顔をしているはず。

 よし、この物件にしちゃいなユウジ! 買いだぜ! このへんにしときな! あまりガッつくなよ! 初対面は誠実さを見せるべき……恋はあせらずだ。

 そう自分に言い聞かせるものの、三十分後……やはりリカにひざ枕をしてもらってるオレがいた。

 あかんって。前もこのパターンで失敗したんやん? ひざ枕なんて誰でもしてくれんねんから勝ち誇ったらあかんで! ユウちゃん。

 たとえば、この状態で『つきあってください』なんて言うのは変だろうか? どのタイミングで言おう? ひざから起き上がってすぐに言うのも変だし、とりあえず告白する前にキスでもしとくべきなのだろうか? セックスじゃなく、つきあうというのを前提に考えると、全く順序がわからない。普通の人はどうしてるんだ?

 昔、オレの好きなアイドルが『好きとキスの順序ばかり気にして唇迷う』なんて曲を歌っていたが、まさに今がその心境。

「ねぇ、けっこう甘えん坊って言われない? ひざ枕頼むって珍しいよねぇ」

 オレの頭を撫でながらリカが言った。

 こんなのはどうだろう?

『オレだけのひざになってくれ!』

 なんか違うな。それこそモノとして扱ってるみたいだし。

 まぁいいや、とりあえず石を投げよう。

「足が疲れてきたら無理せんと、ちゃんと言うてね」

 この台詞で彼女が横になれば、おそらくは脈アリだろう。

「うん、もうこの体勢疲れてきたぁ」

 リカは言った。頭をどけるオレ。リカは三つ折りにした掛け布団の上に上半身を倒した。

「あぁ、なんだかこのまま寝ちゃいそぉ……」

 リカは眠そうに伸びをし、腋の下までバッチリと見せている。

 なぜだかオレは腋フェチだ。本来生えている場所を無理に剃っている……そう考えるととても女性的な部分だと思い、激しく興奮してしまう。好きとキスの順序なんてどうでもいい!

「ちょっと甘えちゃおっと!」

 オレはリカの上に覆い被さった。

 胸にさり気なく手を置く、それもいやらしいまさぐり方じゃなく、そこにボタンがあるからつい押しちゃったんだぜ! という感じでだ。そして顔を近づけ、頬と頬をくっつける。耳を指でいじってみたり、潤んだ瞳で見つめてみたりしてみる。

「言っとくけど今日はエッチしないからね」

「え?」

「なんかあんまりすぐにやらせるとさ、男の人ってさめちゃうところがない? まだ会ったばっかだし……ねぇ?」

「う〜ん、さめるんかなあ? オレは奥手で恋愛経験少ないから、よくわからないやぁ」

 オレはそのままリカとのイチャイチャを続けた。

「あのさぁ、リカの中ではどこからがエッチなん?」

「え? どういう意味?」

「A・B・Cのどこからがエッチなん?」

「C……」

「じゃあこれはエッチじゃないんだ」

 とリカにキスをする。うん、こばまない。好きとキスの順序はキスが先でいいや! どっちが先かなんてどうでもいい。気にしなくていい。鶏が先か卵が先か? んなこたどうでもいい! なるようになれ! 今がよけりゃあそれでいいんだよ!

 耳の裏にキス、首にキス、ついでに腋にキス。ブラの下に手を入れ、乳首をいじったりと徐々に段階をふみ、なんとか互いに上半身裸で抱き合うところまでたどりついた。

 リカは『今日はエッチしない』と言ったが、そんな言葉をオレは信じない。あきらめが肝心……そんな言葉があるが、あきらめた時点でゲームオーバーなのだ。オレの努力次第でリカもエッチしたくなるかもしれない。運命なんて変えてやる! リカとの性行為が実現するのなら、乳首の舐めすぎで舌の表面が削られ味覚がなくなったってかまやしない!

「どうしよ、エッチしたくなってきたかも……」

 ついにリカの気持ちがゆれ動いた。

「でもつきあってる相手ならともかく、そうでもない相手と生でやるってのはいくらなんでもねぇ……ゴム、置いてないよね?」

「いやいや、あるある! ちゃんと用意してるよ!」

「うそ? なんだ、ゴム持ってたんだ! じゃあ、やりたくなってきた!」

 じゃあってなんだよ! でも、わかりやすい子でよかった。オレは電気を消した。


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