金を狩る男と海の覇者な男

5罪目 賞金首な男

 俺が暫定入社してから、丁度一ヶ月が昨日で、今日は正社員となって初めての仕事である。




「えーと、皆さん今までどうもありがとうございました」

「うわぁぁん! 武藤君行かないで〜〜!」

「さ、佐藤さん。大丈夫ですよ、連絡してくれたらできるだけ出れるようにしますから」

「できるだけって言って何にもしてくれないんでしょ!」




 泣いたり、怒ったり忙しい普段見ない佐藤さんにたじたじだった昨日を思い出す。皆の前で泣かれると困る。昼食を一緒に社員食堂で食べるというのを約束する事で、昨日はどうにか泣き止ませた。俺は佐藤さんの超お気に入りだったので、こんなに泣いてくれたのだろう。なんだか退職したみたいなレベルで泣いていた。

 そんな事を考えながら、社長秘書室へ行く。といっても俺の住居がある社長室の隣な為、奥にある俺の部屋から出て社長室に入り、そこにある扉を開けるだけだ。

中に入ると、ある人物に声をかけられる。


「あ、来たんだね。ちょっとこっちに来てくれないかい?」

「あれ? 〖技巧〗さんどうしたんですか?」

「僕が前任の社長秘書だったから、引き継ぎをしないといけないんだよ。後、会社の時は田中で頼むよ」

「はい、分かりました」


 どうやら田中さんがこの仕事の前任者だったらしい。田中さんは組織の中だと三番目だけど、二番目の四天王最強の人が脳筋な為、社長秘書に収まったという。ちなみに四天王最強の人は有休の消化中らしい。あれ? 俺の前の会社には有休なんてなかったぞ? ……いかん、目から赤い水が。

 とりあえず、仕事を引き継ぐ為の話を聞き終わり、部屋から出ていこうとする、田中さんが思い出すように言った。


「あ、今日から一週間海底都市に行ってくるから、訓練は他の人が担当するからね」


 ん? 訓練は分かったけど、海底都市って何のことだ? 初めて聞いた単語だったので聞いておこう。


「すいません、あの、海底都市って?」

「あれ? 知らなかったのかい? 海底都市っていうのは、僕達のような日本の悪の秘密結社や犯罪者、賞金稼ぎなんかが存在する海底にある無法都市の事だよ」

「そ、そうなんですか。でも海底にどうやって都市を作ったんですか?」

「確か、ある神器の力だよ。ほら、荒海を収める神である須佐之男の草薙。須佐之男の力がこもったそれで海の中に異空間を作ってるらしいよ。原理は分からないけどね」

「へぇ、神って本当に存在するんですね」

「まあね、一般人でも神の加護によって後天的に異能を得ることがあるらしいよ。それは通常の異能とはちょっと違うみたいだけどね。まぁ、まず例が極端に少ないから期待はしない方がいいと思うけど」

「そうですね。俺達は既に異能がありますし」

「じゃあ、頑張って。僕は行っちゃうから」

「はい」


 そう言って今度こそ退出していく、田中さん。それにしても海底都市かぁ。聞いた感じによると危険そうだけど行ってみたいなぁ。






 仕事が終わり、俺が訓練所に行くと、超弩級のイケメンがいた。すらっとした高身長の金髪碧眼だ。

 うわぁ、中に入るの気後れするなぁ。俺なんてせいぜい高校の中だったら、それなりにモテる程度の顔だ。ちくしょう、佐藤さんといい、首領の魅雪さんといい、この人といい、ここは顔面偏差値が高すぎる。俺が60ギリギリならこの人達は90後半だろう。あ、ちなみに田中さんは性格イケメンだ。


「あ、いた。君がショウマくんだね? こっちに来てくれ」


 ……見つかった。しかし、なんで俺の名前を知っているのだろうか。

 とりあえず、俺は中に入る。


「どうも、私は【ダークネス・モデル】四天王の〖牛仙〗、三野 景光みの かげみつだ。イギリス人だったんだけど、国籍を変えたせいで名前は日本風なんだ。ちなみに四天王最弱だから、物語だと、正義にやられたら、『あいつは四天王最弱』とか陰口言われるタイプだね」


 キャラ、濃いな。それに四天王だったのか。俺、四天王の事、田中さんしか知らないからな。

 自己紹介されたし、俺も自己紹介しないとな。


「えーと、俺は社長秘書兼【ダークネス・モデル】次期首領の武藤将万です。二つ名はまだ無いはずです」

「君の事はミユキから聞いたよ。こうして見ると中々に才能が眠ってるじゃないか。育てるのが楽しみになってきたよ。後、君には立派な二つ名があるんだよ?」

「え、そうなんですか」

「うん、確か〖戦闘鍛冶師〗だったかな? まぁ、指名手配書に書いてあった奴だけどね」


 へぇ、そうなんだ。〖戦闘鍛冶師〗なんだ。……じゃねぇよ! 指名手配書ってどういう事だよ!


「あれ? その様子だと指名手配の事知らなかったみたいだね。前回の戦闘で正義のヒーローの中でも、上位に近いのとほぼ互角だったから、賞金賭けられたらしいけど? それも1000万もの賞金をね」


 え、マジですか。


「生き延びるためにも訓練に精進しないとね」

「……はい」


 どうやら、俺は転職して早々に千万の賞金首になったらしい。






 海底都市の一角にある薄暗い酒場に指名手配書を見つめる男が一人。修羅場を何度も越えたことがあるのだろう。体に刻まれた数多の傷跡と、常にまとっている殺伐とした雰囲気が普通ではないことを感じさせた。


「お、手頃な依頼じゃん。賞金は千万で武器を作り出す能力。へぇ、あの筋肉ダルマとほぼ互角か、やるねぇ。〖戦闘鍛冶師〗、面白そうじゃん。今回の稼ぎハントはこいつでいいや」

「おいおい、やめてやれよ。よりにもよって〖首狩り鯱〗に狙われるなんて、死刑宣告に等しいじゃねぇか」


笑いながら茶々を入れるこの男も並の実力者ではない。危険な雰囲気を放ちながら、無邪気に笑うその男に匹敵するだろう。


「〖冥王〗、お前に言われたくはないな」

「ギャハハ! それもそうだな!」

「全く、お前の笑いのツボがよく分からないよ」


 酒場の店主は後日にこう語った。


「俺はあいつらが一言喋る事にチビったせいで、その翌日脱水症状で倒れちまったぜ。今度からは指名手配書なんてぜってえ貼らねぇ」

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悪の秘密結社最大手にスカウトされた件 れもんと紅茶 @lemonicetea

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