4悪目 力と本心と名前と
今日のお笑い番組見たかったなぁ。そーいや、最近、駅前に美味しいパフェを出すカフェが出来たんだっけ。佐藤さんも連れていきたかったなぁ。親に何も言わずに家を出て親孝行もしてなかったのにな。あーあ。
死ぬ間際なのにこんな事しか出てこない。せめて、走馬灯でもよぎればいいのに。
そして、レーザーの直撃を受けて意識は消えた。
「ふっ……ふはははは!!我が正義の光の前には、どんな悪の闇だろうと立ち塞がることは出来んわ!!」
高らかに笑う正義のヒーロー。既にボロボロの悪の組織。勝敗は明らかなはずーーだった。
「あーあ、手遅れって感じかな?」
「いえ、大丈夫ですよ。気絶してるだけです」
突然現れた謎の二人組に正義のヒーローは
身構える。
「それは良かった。次期首領クンにここで死んでもらっちゃ困るからね。改造手術をしといて良かったよ」
「最下級の改造手術の割には伸び代が大きかったですよね。これが才能なんですかね」
「ボクが見込んだ次期首領だからね。よし、〖技巧〗クン。片付けちゃうか」
謎の二人の会話に誰もが追いつけてない中、二人は言った。
「【ダークネス・モデル】首領、〖鬼才〗こと
「【ダークネス・モデル】四天王次席、〖技巧〗こと田中 和弘。賞金七億」
「ボクのお気に入りクンを痛めつけてくれたのを後悔させてあげよう」
この二人を敵に回した時点で敗北は確定した。
知らない天井、ではないな。一度だけ見たことがある。
「お目覚めかい? 武藤クン。二度目の改造手術はどうだったかな?」
「二度目ですか……たぶん最悪ですよ」
「ふふ、じゃあ初戦闘の方は?」
「もっと最悪です」
この人と会話が成立する時点で俺は既に染まってしまっているのだろう。割と後戻り出来ないレベルで。
そう思いながら、彼女を見る。ボーイッシュで端正な顔立ちだ。少なくとも、芸能界にでたら頂点をとれるぐらいは可愛いだろう。
「何ジロジロ見てるんだい? もしかして、惚れちゃったとか?」
ニヤニヤ笑いながら聞いてくる、彼女に言ってやる。
「そうですね。俺、惚れちゃったみたいです」
「ふぇっ!?」
彼女はこうやって挑発してくる割に、いざ言われるのには弱い。二週間一緒に暮らしてその事は既に学んだ。
彼女は赤面した顔をなんとか平常通りにし、口を尖らせながら言う。
「ボ、ボクに惚れたって言うのなら、もちろん、後二週間だけじゃなくて、ずっとここに居てくれるんだよね?」
それについては何度も考えたし、ここに居るのは悪くないと思っている。
それに、俺は力不足だ。俺一人じゃ、佐藤さん達を守れなかった。あの二週間で確かに成長はしたんだろうけど、足りない。圧倒的に足りない。自分の大事な人達を守れるような力がないのだ。
戦闘員を辞めて、普通の生活をして、普通の家庭を築き上げるのもいいかもしれない。だけど、それは無理な話だ。ただでさえ希少な異能力者。普通に生きようと思っても、厄介事に必ず巻き込まれてしまうだろう。
だからこそ、俺はどんな厄介事だろうと、強行突破できるような圧倒的な力が欲しい。全てを守り、全ての障壁を破壊できるような力が。その為に俺は生きている。
だから、答えは分かりきっている。
「もちろんですよ。俺、この組織に生涯捧げて、骨を埋めますから。あ、惚れたっていうのは冗談ですよ?」
「ほんと? ほんとのほんとに?」
「言ったじゃないですか、もちろんって」
「じゃあ、ボクが首領辞めたら、首領やってくれるの?」
「まぁ、できるような実力がつけば」
「ボクが何かする時、いつでも側にいて助けてくれるの?」
「助けますよ、秘書ですから」
まぁ、一番の理由は彼女の嬉しそうな顔が見たかったからだけど。人間なんてそんなもんだ。
あれ? そう言えば俺、彼女の名前知らないぞ?
「首領、良ければ名前教えて貰えますか?」
「あれ? 知らなかったっけ? ボクの名前は藤堂 魅雪。二週間もあったのに知らなかったなんてちょっとショックだよ?」
「あははは、すいません」
後二週間で次期首領に見合う力をつけないとな。
こうやって、俺の悪の物語は新しい始まりを迎える。
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