3悪目 正義と奥義と大事な仲間と

 お試し社長秘書兼次期首領期間が始まって、既に一週間。仕事も絶好調で戦闘面も成長出来ていると実感している。友達も増え、中々に充実した生活を送っているといえるだろう。

 しかし、そんな時間は長く続かない。


「佐藤さん、一緒にお昼行きませんか?」

「あ、いいですね。今日は中華料理のお店行きましょ!」

「思い立ったが吉日ですね。さぁ、善は急げとも言いますし」

「ふふふ、ことわざがマイブームなんですか?」

「そうなんです! 最近…………」


 佐藤さんと二人で連れ立って、お昼に行こうとするも、


 ギュインギュインギュイン!!!


 と警報音によって邪魔される。

 この警報音の意味は一応知っているが、聞いたのは初めてだ。


『我らが【ダークネス・モデル】の関西支部が攻撃された。戦闘員達はすぐさまワープ装置のもとまで迎え』

「「「仰せのままにっ!」」」


 突如大規模な移動が行われる。全員がスーツにある機械を取り付けると、突然全身タイツになる。そしてそのまま駆けて行ってしまった。


「武藤君、私達も行きましょう」

「はい」


 事務方である俺と佐藤さんは後方支援としてサポートするために、物資を取りにいかなければならない。俺がダッシュで行けば遅れた分も取り戻せるだろう。それを口実に佐藤さんをお姫様抱っこして走り出す。


「へ? あ、あの、なんで私……」

「こっちの方が早いでしょ?」

「あ、うん……」


 役得だ。【ダークネス・モデル】サイコー。






 俺たちが物資を補給しにいった時、戦況は芳しくなかった。ボロボロになり倒れ伏した戦闘員ばかりなのに対し、襲撃者と思われる私服の男は無傷に近い。


「大丈夫!? 武藤君、治癒水ポーション出して!」

「分かりました。これ飲んでください」

「あ、あぁ。すまない」


 明らかに何かしらの力を持っている私服の男に対し、鍛えただけの戦闘員じゃ分が悪い。関西支部にいた怪人たちは、全員重症のようで戦えない。この戦いはどう考えても負けが確定していた。

 更なる応援を要請するため、本部に連絡を取る。


「もしもし、こちら関西支部応援の武藤です」

『ん、キミか。どうしたんだい?』

「首領ですか? 実は応援が足りなくて。怪人級三体分の応援を要請したいのですが」

『いや、ごめんね。実は同時多発戦闘みたいで、そっちにあまり人員は避けれる状況じゃないんだよ。それにそっちはキミがいるから制圧できるでしょ』

「いや、そんなのむ『ごめん!いま事務処理が忙しいんだ!早く戻ってきてよね!』り」


 電話を突然切られてしまった。

 しかし、これを一人で対処しろというのは無茶だ。敵は一人だが、一度に数十人の戦闘員を相手にしながらも、疲れた様子が見えない。俺もかなりの急成長を遂げたが、いまだ成長段階でしかないのだ。

 そうはいっても仲間はどんどん傷ついていく始末。期間は短いが仲間意識は強い。やはり、やらなければいけないのだろうか。

 俺は手荷物からあるものを取り出す。【ダークネス・モデル】のロゴである、ブラックホールの中心に五芒星の絵が入った、穴なしののっぺりとした仮面だ。装着すると何らかの技術によって視界が広くよく見えるようになっていた。素顔を隠し、腰にさしてある何本もの空気の刀を取り出す。それを一回分解し、混ぜ合わせることで密度を増す。そして、私服の男に突っ込んでいく。

 相手はすぐに俺に気づき、刀を圧し折ろうと鋭い手刀を当てようとする。俺はそれに対して手首を柔らかく動かして、受け流す。こういう小手先の技術は〖技巧〗さんに教えてもらったものだ。


「その強さ、幹部級か」


 相手はどうやらこれだけで俺の実力を感じ取ったようで、警戒の目が強くなる。


「私は〖強固な肉体〗ハードストロング!肉体のみで悪を滅殺!正義の鉄槌を下す者!マッシヴ・ハーデスト!」

「正義のヒーローか……」


 男が決め台詞を叫ぶと、突然何もない空間から装甲が飛び出し、男の体はぴったりとフィットしたそれに包まれる。デザインは見るからに正義の味方ですって感じだ。台詞にもあったように、悪を滅殺する立場である正義に間違いない。

 俺も相手の強さを再認識し、警戒度を上げる。正義のヒーローというのは普通の異能力者に国の最新技術を使った特製のスーツをプラスする事で大幅にパワーアップさせた者の事だ。スーツの能力や個人の異能がよく分からないので、警戒はしておいた方がいい。

 まぁ、名前からして肉体強化系だろう。


「剛の拳!」

「ヤバっ」


 相手の衝撃波を交えた攻撃が当たりそうになり、咄嗟に回避する。俺にはまだ戦闘中に手早く思考ができるような実力はないようだ。回避出来たのも改造手術のおかげだろうし。

 俺も日本刀を大きくし、野太刀とする事でリーチと破壊力を手に入れる。こういう相手は中距離や遠距離からの高火力の方が効果があるだろう。


「ふんっ!」

「ぐっ」


 大抵の武器を使えるように短期間の修行を積んだのがよかった。相手は手で受け止めていたが少しくい込んでいた。俺は武器を相手に押し付け、手錠に形状変化させる。空気で作ったとはいえ、何百何千もの圧縮のトレーニング量は伊達ではない。空き時間に無意識にやってるレベルだからな。


「ふんぬっ!」

「無理だ。努力を甘く見るな」

「くっ!剛の型・紅蓮強筋!」


 相手が叫ぶと体が真っ赤になり、周りの水分が蒸発し始める。爆発的な熱エネルギーによって肥大化した筋肉が盛り上がっているのだろう。異能は不思議でいっぱいなので、よく分からないけど。

 俺は空気の手錠が破れる前に、次の武器を作り出す。俺はスーツの内ポケットから、絶対零度の冷気を取り出し武器化する。スーツは特別製なので冷気の問題は特にない。


「極冷刀・氷帝」


 これは〖技巧〗さんが付けてくれた名前だ。俺の奥義でもある。まぁ、他にも奥義ならあるのだが。

 俺はこれまた特別製の手袋を装着し、刀を手に持つ。しかし、絶対零度に耐えうるというのはどういう素材を使ってるんだ?


「ふんがっ!!」


 相手がついに俺の拘束を破る。その前に俺の刀は既に相手の首元に迫っていた。


「効かんわっ!」


 相手はその爆発的な熱エネルギーによって体を一気に加速させる。

 おいおい、そんなことしたら体がボロボロになるぞ。

 俺は殺すのを諦めて、機動力を削ぐことにする。


荒れ狂う斬風ストームエッジ!」


 本当は必殺技なんて叫ばない方がいいのだろうが、かっこいい方がテンションが上がる。なんというか戦闘にノってくるのだ。

 この技は刀を空中分解させ、細かい刃を相手にぶつけるものだ。これを極冷刀でやると、冷気による熱エネルギーの減少と傷や凍結による行動の阻害ができるのだ。


「くっ!剛の型・金剛強筋!」


 相手が発していた熱が波状に吹き飛んだかと思うと、相手の体が煌びやかに光る宝石のようになっていた。


「剛の拳っ!」


 相手が上に向かって、衝撃波を打ち出し【ダークネス・モデル】の隠れ蓑であった企業の支部を破壊する。

 夏に燦々と照りつける太陽の光が相手の体が輝き出し、光を集め出す。俺は何をしようとしているのかに気づき、止めようとするが、奥義の一つである極冷刀はもうさっき分解してしまった。


「死ねぇ!剛の技・輝火極熱光!」


 奴が体から無差別にレーザーのようなものを出し、破壊の限りを尽くす。奴のレーザーが向かう先には、佐藤さんと戦闘員さん達が。

 俺は考える間もなく走り出した。

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