第7話 後日談

 月曜の放課後。アイドル研究部の部室。部員と研究生が全員集合していた。

 まだ松葉杖のお雪に、またしても土下座する詩奈だった。

「まあ、詩奈さんに悪気が無いのであれば、仕方ありません。その邪鬼とやらのことはわかりませんが、亀澤さんに憑りついている神様がいらっしゃるくらいならば、邪悪なものもいるのでしょうね」

 お雪はアメノウズメを見やりながら疑いもせずに、詩奈の謝罪を受け入れた。

「お雪とやら、今回は災難じゃったのう。我が神社の周りに巣くう邪鬼さえおらなんだら、それらが詩奈に憑りついておらねば、このような怪我もせずにすんだのにな」

 お雪とアメノウズメ、二人の大人っぽい美人が部室に並んでいる姿は圧巻だった。お互いを意識しているのか、ずっと視線が合ったままだ。

 その姿を必死でカメラにおさめようとする部員たち。しかしいかなる方法でもアメノウズメをとらえることは出来なかった。

「すごく今さらの話なんだけどな」

 強司があごに手をやりつぶやいた。

「ドル研杯のルールなんだが。基本的にソロでエントリーするということになっているが、特に意味は無いんだ。これをグループでも参加可能に変えてやれば、今回の事件は起きなかったんじゃないかって思うんだ。要するにお雪、亀ちゃん、詩奈の三人組だ。これなら邪鬼もステージに立つことが出来て浮かばれていたんじゃないかと」

「えー、遅いですよ今さら」

 亀ちゃんが口をとがらせた。

「だから今さらの話なんだよ。そして次回からは詩奈にも出場チャンスがあるんだ」

「そのことなんですけど」

 詩奈が強司の前に来て思い詰めた顔をした。

「実は私、言いにくいんですが、退部しようと思ってるんです。退部届も持ってきました。お雪さんに憧れる前からずっとチアリーディングに興味があって、チアリーディング部に入部しようかと思ってるんです」

「なんだって? それは、うーん」

 うなる強司だったが、半ば強引に退部届を渡されてしまい、詩奈は駆け足で部室を出ていってしまった。

「なんじゃ、嵐のような女子じゃの。あっという間にいなくなってしもうた」

 呆れるアメノウズメだった。

「どうしよう。後輩がいなくなっちゃった」

 落胆する亀ちゃん。せっかくできた可愛い後輩を失って悲しみしかない。

「いや、お雪も後輩だろ」


 何日か経過して。

 登校する亀ちゃんにはいまだにアメノウズメがついてきていた。もちろん姿は全校生徒によく見える。

 その美しくも妖しい姿に、男子生徒や男性教員達は虜となっていた。

 普段のように霊を憑依させていれば先生達からお叱りを受けるところが、今回ばかりは男性教員から擁護ようごする立場の人が大勢現れた。特に校長先生が熱心だった。

「あの、ところでウズメさん。いつまで私に憑りついてるんですか」

 授業中。当たり前のように一緒に授業を受けるアメノウズメに、亀ちゃんが問いかける。

「うむ高校生とは楽しいものだなと満喫しておるところじゃ。アイドルも楽しい。こんなことはめったに経験できぬから、もうしばらくはおぬしと一緒におることにする」

 英語の授業にうなずきながら答えるアメノウズメ。

「はあ、ウズメさんと一緒にいると男子から変な目で見られるんですけど」

 今もクラスの男子たちが亀ちゃんの方を見てひそひそ話をしている。ニヤニヤと締まりのない顔をしながら。

「心配はいらぬ。それはおぬしではなくわらわを見ておるのじゃ。気にしなくてもよい」

「気にしますよ。そういえば、ウズメさんは女性に嫉妬すると叩くんですよね。男性の場合はどうなるんでしたっけ。旦那さんがいるんですよね」

 亀ちゃんは不意に思い出したように言った。

「夫の猿田彦のことじゃな。おのこに嫉妬すると、猿田彦がやってきて成敗するぞ。それはそれはわらわの打擲なぞかわいいものよ」

「じゃ、じゃあ、もし猿田彦さんが嫉妬に狂って、この学校に乗り込んできたら……」

 亀ちゃんは思わず身震いした。

「そんなのわらわの知ったことか。せいぜい自分の身は自分で守るんだな」

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