3 孤絶と闘う者

 第十九区デープリンク――浄水場近くの巨大な水路の入り口。

 集合した怒濤ドランク中隊、そして制服姿の陽炎=通常の手足――現隊復帰/事件に合流。

 全体へ無線通信。副長。

《こちら解析室。接続官コーラスのリンクの準備は完了した。白犬ヴァイスの四肢の換装も終えている》

《いいわね、白犬ヴァイスに少しでも異常が見られたらすぐに中止します。彼女はまだスペアの手足さえ付けられる状態にもなってないんだから》

 MPB特甲児童の担当医マリア・鬼濡・ローゼンバーグの念押し――医師として今回の作戦には反対の立場。

《夕霧隊員はラジャーですっ》

 今作戦で一番負担のかかるポジションの夕霧=あくまでマイペース。明るさを見失わず。

 九十分前――陽炎によって示された捜索案。

 陽炎に、歌によって敵と繋がっている夕霧の感覚器官を接続官コーラスの仲介によって電子的にリンクさせる。

 ”互いが頭となり目となり手足となる”――それを文字どおり行う。

 実際に動くのは陽炎自身。夕霧が見ているもの・聞こえてくるメロディ――それを感じる彼女特有の感覚を夕霧から借りて捜索をおこなう。

「準備はいいか、狙撃手シャルフシュッツェ? 今日は踊り子テンツェリンと呼んだほうがいいかな?」ミハエル――努めて気楽に。しかし復帰したばかりの陽炎を気遣う響きが滲む。――彼女、、がちょっとむっとなる。

 陽炎、あえて不敵かつ挑戦的に微笑し、 

「はい。私と、彼女、、の行進曲とも問題ありません」

 気楽さに調子を合わせて応えた。

 ミハエル=ちょっとびっくりしたあと、いつもの無骨で機械的で大ざっぱですっきりして妙に落ち着かせる笑みをくれた。

 受け取る陽炎――静穏と勇気が同時に宿った。

「行こう、夕霧、吹雪くん」

《はーい》朗らかなに応答。そして、陽炎は本部の夕霧と同時に斉唱した。

「転送を開封」――陽炎=四肢がエメラルドの輝きに包まれ、一瞬で機甲化。紅の特甲――左腕のライフル=なし。互いの感覚を共有させるため、陽炎・夕霧ともに兵装なし。ただ、、の特甲の手足。

「これより共有を開始します」陽炎の合図。

 吹雪が夕霧の感覚野を自身を中継点として陽炎につなげる。

 とたん、陽炎に迫る未知の感覚、耳からではなく脳内で鳴っているメロディ――いつも聴いていた夕霧のハミング――その原曲、、

 さらに視界が変化、無数の光の線が螺旋をえがき天へ登っていく。メロディの視覚化と形容すべきまぼろし、、、、の出現。

 脳内で鳴るメロディ。無数の曲があちこちに流れている。

 どれが敵の発したものだ? と探そうとする。

 異義――自分のでは無い、夕霧のもの。声としてではなく、歌として受け取る。

 同意し、この劇場の流儀に合わせた。

「あーあーあーあーあー♪」

 突然歌い出す陽炎。中隊の面々がざわめく。

 見つめるミハエル、オーディエンスに徹する。

 そうだ、考えるな。歌え。夕霧のように。かつて彼女、、が喜びを表現してそうしたように。

《ふーんふーんふーん♪》軽やかな追従――夕霧の電子の歌声。

 脳内で、視覚で、音がぽつぽつ近づいてくる。

 音を探す。声に出して、歌に組み込んで、繋げて、ばらして、歌にして。やがて定まる旋律――。

 視界に映る光の螺旋がほどけて、無数の光の筋となって水路に吸い込まれていく。

 水路に記された光の道――まるで五線譜。

「んーー♪」静かなハミングに変化。

 陽炎が水路へ歩んでゆく。水路に引かれた光の線に足をおいた。

 ポーンっと音が鳴る。一歩、また一歩、踏むたびに鳴る音。足跡が音符となって五線譜に刻まれていくみたい。

 声をいったん止めて厳かに聴き入っていた中隊を/ミハエルを振り向く。共鳴者たる夕霧とともに確信をこめてうなずいた――歌を再開し、歩き出す。だんだんアップテンポに/走る。

 陽炎を楽団長として中隊が後に続いた。




「涼月さん、あなたに大切な人はいますか」

 いきなり啓発セミナーでも始まったのかと思った。

「この人がいるだけで生きる理由になる。この人がいない人生なんて考えられない、この人が失われた人生なんて自分が死ぬのと同じ事だ。そう、思えるほどに大事な人です」

 スピーチじみた話し方。椅子から立って部屋を歩きながらそうしている。

「私にはいました。妻と娘です。じつに平凡で月並みな答えとお思いでしょう。けれど私にとっては生きる意味そのもの――何があっても失いたくない、失わせたくないと思える存在でした」

 とくとくと語る。長くなりそう――涼月の雑感。

「ですが妻は死にました。交通事故です。娘はそのときに両手足を失いました」

 心底悲しそうに、相手に自分の心情を訴えている。

「耐えがたい喪失です。私の人生の意味が、生きる理由が突然失われたのですから。ですが娘は生きてくれました。多くを失って――運動の才に恵まれた彼女にとって手足を失ったのは、その命を失うに等しいものだったでしょう。私は彼女に与えることを決意しました。私に与えられる全てを。この人生も全て」

 穏やかさを崩さず、語気を強める。

「私の前職はロボット工学者でしたが、機械化義肢のことを一から学び、新たなキャリアを積みました――全て娘のために」

 娘――ゲルストの行為に応えてくれた。ゲルストが研究し、調整した手足を、血の滲む努力をもって自分の新たな手足にしてくれた。

 取り戻せた――娘の人生を、自分たちの人生を。

「けれど、娘は病に冒されました。近い将来に死に至る病です。取り戻したはずの人生が崩れていく。当然あらがいます、誰もがするように」

 一息つき沈黙。これから核心に迫ることを暗示している。

「かねてより研究してきたロボット工学と脳内チップを用いた義肢の研究のハイブリッド――義体プランです」

 義体プラン――生きた脳、もしくは脳内チップよりマルチエージェント化した疑似人格を使い、機械で作られた《ボディ》を動かす。現在の躯体プランとは異なり、生身を使わずに。

「私はこのプランを娘が生きているうちに実現させなくちゃいけなかった。病で肉体が死ぬ前に」

 ――そのために試験案を国に認可させるべく奔走。

 幾度のシミュレーションの実施=精度を高める。

「でも娘の脳をいきなり使うのは絶対にしたくありませんでした。プランの有用性を実証する機会を私は欲しました。そこで気付きました、涼月さん、あなたこそ義体プランを成立させるのに必要な存在だと」

 いきなり持ち出された自分の名前――ぞっとなる。

「当時のあなたは、たぐいまれなる素養を持ちながら、反抗的、反社会的、すぐに暴力にうったえる、反骨心の塊のような方でしたね」

 どれもこれもけなす言葉。なのに、その一つひとつが素晴らしいと言っている。恣意しいも皮肉もなく。

「優秀な機械化児童になれる可能性を持ちながら、無軌道に国の福祉の産物を非生産的ないさかいに費やす――そんな子供がどういう風に見なされるか分かりますか?」

 問いかけ。ただし答えは期待していない。

「未来の脅威――言ってしまえばテロリスト予備軍です」

 いやあ、つくづく素晴らしい――うんうんうなずく。

「私の義体プランにはあなたのような人がぴったりだったんです。優秀な素養と相容れぬ反抗性――そんな子を社会に貢献させるには――そう、義体プランの実験体として脳を提供し、未来をひらく最初の一歩となることだったのです――私は求めてやまなかった……当時のあなたを」

 戯曲めいたまくし立て/咳払い――失礼、と調子を整える。

「けっこう良いところまで行ったんですよ。でも、ある人に義体プランの全てを消されてしまいましてね――吹雪・ペーター・シュライヒャーくんに。福祉局のデータ、研究成果、国を納得させうる材料――全てをね。ついでに私の役職も。おかげで私の頭の中を除いて、義体プランは幻となりました」

「吹雪が……」

 驚きと納得。無事に自分の身体がここにいる訳を初めて知る。

「とてつもない徒労感でした。何故このような試練をと問いたくなるほどに。娘はもう死に瀕している。時間がない――。私は決断しました。娘の魂を取り出すことを」

 その所業――娘の脳に直接精神的負荷を与え続けた。過去の耐えがたい経験を脳内で再現させ続けることによって。

 本来の心を守るために盾としてあらわれ、切り離される人格=“身代わり《ズュンデンボッグ》”をプログラム化し義体の脳=コアチップに転写するために。

 生きながらにトラウマの煉獄を味わい続ける難行を、男は自分の娘に強いた。

「娘は本当によくがんばってくれました。脳死する前にチップに人格を転写することが出来たのですから」

 一命は取り留めたと言わんばかりの言い様。

「ざ……ざけんな! あんた……自分で、殺して……」

 病で生をまっとうする前に、父親に殺された娘。命尽きる最後の瞬間さえ苦痛を負わされた者のうったえを代弁したくなる。

「ええ……私の罪です。罪は償わないといけません。だから私は娘を生き返らせないといけない」

 おだやかに、だが確固たる意志をもって告げた。

 娘=義体化されていれば助かったかもしれない存在。

 認可される足がかり=涼月。完全に芽をつぶした少年=吹雪。

「復讐したいのか?」涼月。「あたしたちに復讐したくて――」

「いいえ」ゆっくりと断言。当然ではないかと言うような響き。

「ですが昔はそう考えたこともありました。お恥ずかしい限りです。仮に遂げたところで満たされるのはちっぽけな己の欲求だけ――死者に報いるという下での独りよがりで生産性の無い浄化の気分がしばらく味わえるだけなんです。そうしたところで娘は帰ってきませんからね。無駄です」

 だからお気になさらずと告げる。狂った理屈に理解が追いつかない。

「真の浄化を見失ってはいけないんです。娘を取り戻すということをね。現に彼女の魂は残すことが出来たのですから。あとは私の研究が完成すれば良いだけのこと――復讐なんてしている暇はありませんでしょう?」

 言い含めて流れを戻す。

「チップに彼女の人格が転写されたことで、研究のリミットは格段に伸びました。そんな私に出会いがありました。リヒャルト・トラクルくんとの出会いが」

 鮫頭の存在から絶対に関与していたであろう男=プリンチップ社のエージェントの名前。

 涼月=予期していたとはいえ驚きを禁じ得ず。

 出会い――取引=義体に関する研究を提供する代わりに、ゲルストを支援。

「リヒャルトくんは犠脳体兵器というかたちで私の研究を発展させましたが、どうもあれは好きになれない。野蛮でしょう?」

 どの口がいうんだ、と思う涼月。

「彼からいただいたユニットは非常に良い商品なのですが、私の美意識とは合わないようで。彼女に取り付けたアレは趣味が良くない。もっと可愛いもの出ないと……」

 商品=鮫頭へドロン――非常に不本意なんですと表明。

「義体において暴力は最初の段階――身体を動かすための最も爆発的な原動力――イグニッションです。そして、研究を進めれば次の段階へ行けます。そのイグニッションキーに選ばれたのは……」

 もったいぶって指を宙に上げ、涼月をぴしりと指さした。

「やっぱり、あなたなんです。涼月さん――あなたの特甲は外的な武装に頼らずじつに原始的で人間的なものです。その原始性こそ起動の始祖になるにふさわしい」

「だから、あたしのデータなのか……」

 あえて心を波立たせずに言う。動揺することに疲弊している。

「データだけでは不十分なんです。特甲を行動させることで生じる感情が欲しかった。あなたが特甲を用いて、動き、走り、殴り、制圧する――その行動一つ一つが脳からの指令によって成されています。治安維持に従事し銃火にさらされながらも強い意志を持ってその手足をふるっている。その強い意志――感情を再現させることが重要なのです」

 ゲルストが自分のこめかみに指をトントン突いた。

「あなたの脳内チップのコピーをマルチエージェント化し、ある実験をおこないました。レーゲルメースィヒ反応――暴力との調和を電子上であなたの疑似人格に再現してみたんです」

 涼月――愕然/怒り/嫌悪。イカレた野郎に操作されたもう一人の自分――その作り方を説明されて。

「安心しました。治安を守る職に就いたことであなたは変わってしまったと思っていましたから。でも実験の結果、素晴らしいものになりました」

 涼月――答えをきいていない=言われずとも分かるから――暴力の調和――劣等感が闇雲に大きくなった自分の疑似人格=幸せな誰かさんをめちゃくちゃにする怪物。

「コアチップ――娘から抽出した疑似人格に、あなたのデータから作られた人格を統合させた結果――素晴らしい調和が成されました。義体の成立です――恐怖と憎悪と暴力のイグニッションによって。先の彼女の行動で証明されました。復活への第一歩です」

 長かった、本当に――感涙しているゲルスト。

「そして、素晴らしき出会い。涼月さん、それにあなたの脳と脳内チップのオリジナル。足りなかったものが揃いました。今日この日こそ、第二の生誕日にふさわしい日です!」

 ひとり舞い上がる男。そして涼月に一つの問いを向けた。

「今いちど問わせてください。涼月さん、あなたに大切な人はいますか? 

私にとっての彼女と同じくらい、もしくはそれより重いと思える存在が?」

 質問――まるでスフィンクスの問い。

 答え次第で身動きの取れない自分の命運が決まってしまうとでも言うように――あるいはどう答えても。

 純粋な思案――大切な人――思っていたより多く浮かぶ人々――今ある仲間も親身になる大人も、失われた者たちさえ。なぜか最後にはっきり浮かぶ小柄な金髪の少年。

 けれど、だからこそ、かき消した。それが答えだったとしても――こんな自分の世界だけしか見ていない男に口にするのは汚らわしく思った。

 そして言った。

「そんなヤツいない。……大事で大切で、おっ死んじまって泣いたって、あたしも死にたいと思ったって、呑み込んで前に進む。あたしはあたしの人生をあたしのために生きてやる」

 身代わりの答え――だがそれもまた、人としてままならぬ、紛れもない答えに思えた。

 打算なき反骨心――この後で何をされるとしても。

 意外そうな表情――直後に拍手喝采。

「つくづく……つくづく素晴らしい! その答えに内包された思いを察すると……感動です! そのエゴ、その自己肯定、彼女と溶け合うにふさわしい。認めましょう涼月さん。あなたはヒルデと同じ重さを持つ存在だ」

「黙れイカレ親父! いつまでテメエの戯れ言で酔っ払ってやがんだ!」

「大丈夫です。眠っている間に全て終わります。目覚めたときにはヒルデとともに不滅の魂となって義体を次のステージへと導くことでしょう」

 棚から注射器を取りだし近づいてくる。

「く、来んな、来んじゃねえ!」

 わめく、身をよじる、恐慌にまかせ叫ぶ。情けなく涙で視界がゆがむ。

「また一つ、お前に与えられる――ヒルデ」

 ゲルストの影が座って動けない涼月の姿を覆ったとき――。

 ――凄まじい爆音が発生。瀟洒な調度品にあふれた壁が吹っ飛ぶ。

 漆黒の機体=鮫野郎が侵入。腕+鮫頭=交換済み。

「やあヒルデ、腕は治ったんだね、ちょうど涼月さんとお話を――」言い終える前に首根っこをつかまれ脚が宙に浮くゲルスト。

「ヒルデちゃん、ちょっと、いたい……」

 くぐもった声のゲルスト――なおも穏やかであろうとしている。

片手で男をひっつかんだまま近づく鮫野郎。

 何が起こってる? 困惑する涼月/その座る椅子へ鮫野郎がいきなり前蹴りをくらわせた。

 突然の攻撃/椅子=脚と脚の間にヒット/後ろへ吹っ飛ぶ椅子/壁に激突/むちうち――衝撃で前に倒れる涼月。

 なおも立てない身体。必死に這って進む。鮫野郎があけた穴へ。追撃を警戒して神経を敵に意識させながら這った――追撃=なし/どうにか外へ。

 ちりっと、また頭の中が一瞬、痛んだ。なにかが無理矢理受信させられる。

 座標と日時。

 そいつを考える間を放棄してひたすら這いつくばった。




「はぁーあーあーああー♪」艶やかでハスキーな旋律が暗い水路に響き渡る。

 最初は戸惑い気味だった陽炎の歌が、一つの確信をもって堂々たるメロディを奏でている。

《ふーんふーーふーーうーうー♪》本部で感覚を共有している夕霧がともに歌える喜びを表現。見事な二重奏。

 光の筋が複雑怪奇な水路を一個の迷いもなく伸びていく。迷いなくひた走る陽炎+怒濤ドランク中隊。光の先――陽炎の/夕霧の旋律が繋がる相手に向かっている。そこにきっと涼月もいる。

 中隊面々=いても立ってもいられずぼそぼそハミング/一人ふたりと伝播でんぱ/ウィーン暮らしの気質/やがて陽炎の旋律に合わせて全員の合唱。――ウィーン怒濤ドランク合唱団の結成。

 屈強な男たちの意外な美声イケボ。陽炎の旋律を妨げることなくむしろ増幅させるハモり/合いの手。さらにミハエルの色男ロメオハミング。陽炎――聴き入ったり録音したい気持ちを自制し、行軍歌マーチを歌う/走る。歌声を引き連れて。

 かなり深いところに来たとき、異変。

 視界――光の筋がぐにゃぐにゃ歪み始める。夕霧のハミングが霞む。

 警告――夕霧が特甲の接続の限界を迎えたことをあらわす表示。

紅犬ロッター! はやくリンクを解除して! はやく! 陽炎!》

 鬼気迫るマリア医師センセの声。歌を止めようとしたとき――

 荘厳な歌声とともに視界に輝きが起こった。ゆがんだ光の線が最後の力を振り絞り、陽炎たちの先、六又に分かれた水路、そのうちの一番右の水路へ伸びたところで、消えた。頭の中の歌声もともに。

《全ての接続解除! 四肢も外して、夕霧を早く医療フロアに――》

 果断なマリアの対応。自分を省みずに道を示してくれた夕霧。示された水路へ走り込む陽炎たち。

「――ありがとう、よくがんばったね」そうつぶやき顔を伏せる/前を向いて屹然となって走る。

「野郎ども! 我らが歌姫たちの偉大な働きに報いるときだ。くまなく捜せ!」

 ミハエルの号令。ときの声をあげる男たち。

「待っていろ、涼月」みなぎる意志。必ず迎えに行く。




 外=下水路――水の流れる音が反響し不快なにおいが鼻をつく――もはや何度目かの光景。

「くそっ……もう二度と入らねぇぞ」涼月の呪詛じゅそ/這って前進し続ける。

 すると――にわかに音――脳内チップから=通信の回復/急いで応答。

黒犬シュヴァルツか! 待ってろ。じきに探査が復帰する――》

 声=ミハエル中隊長のもの。

 しばらくして反響する無数の足音=怒濤ドランク中隊。涼月=ライトに照らされる。部隊の存在を見止める。

 屈強な男たち+中隊長たるミハエル、そして帯同していた遊撃小隊員――陽炎=特甲の姿。

 ミハエルと陽炎に身を起こされる涼月――にわかに光=再転送/通常の手足に換装。立ちながらも陽炎に寄っかかる。

「あっちに鮫野郎と、イカれたやつがいます」

 ふらつきながら指さす。

 うなずくミハエル=速やかに移動――男たちを引き連れて。

 その場に残る陽炎――涼月をそっと横たえる。いつでも抱えて逃げられるように膝枕みたいな姿勢に。

 涼月――息を整え、気力が戻るのを待つ。明かされたショッキングな事実から逃げたくて、陽炎にすがりつきたくなる衝動を自制。強がって言った。

「……よく、分かったな」

「夕霧ががんばってくれたんだ。吹雪くんも戦闘後からずっとマスターサーバーと繋がってお前を捜していた」

「そっか」

 とたん目からなにか零れた。これ以上なにも言えず、支えてくれている仲間のぬくもりに今は身を委ねていた。

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