朝のAM 夜のAM

橙 suzukake

     

 代車に乗って2日目。

 朝はいつもFM局を聴きながらの出勤だけど、AM局しかないリッターカーの代車で、昨日は無音で走った。

 今朝は、地元の放送局にチューナーを合わせてみた。

 「歌詞のない歌謡曲」という番組が、7:30から始まった

 聴き慣れたポップス曲だけど、番組名どおり、ほんとうに歌詞がないインストゥルメンタル曲が数曲流れた。しかも(といっては失礼だが)、そんな曲にリクエストがあることに驚いた。

 

 最後の曲が、「恋は水色」だった。

 演奏しているのがポールモーリア楽団だから、もともと「歌詞がない」歌謡曲(?)だ。

 「いや、仏語の歌詞がついた曲があったような・・・」なんて反芻していたが、とたんにこの聴き慣れた曲に引き込まれて、最後には、なんと、涙が出てきてしまった。

 朝っぱらから、「恋は水色」を聴いて涙が出るなんて、朝食のパンを食べているときには思いもつかない出来事だった。




 帰り。

 エンジンをかけたら、当然のことながら、朝、チューニングしたAM局の放送が軽いノイズとともに車内に流れた。朝の出来事を思い出して、少し、恥ずかしくなりながら、車を始動させた。

 だいぶ走ってから、いかにも中年~壮年向けのリクエスト番組が始まった。

 聴いたことも無い演歌が数曲流れたあとに、「では、続いての曲は、八代亜紀さんで『舟歌』をどうぞ」とアナウンサーが言った。

 「タン タラララン♪ タン タラララン♪ タララン タララン ラン♪」

 言うに及ばず聞きなれた前奏だ。

 「お酒は温目の燗がいい~」

 このひとことで、寒さのせいではない鳥肌が、腕にできている。

 「沖のかもめ~に深酒させてよ・・・」から先は、もう、同時熱唱。


 まいった。ほんとうに、まいった。



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