先生とドラゴン
「そういえば、さっきついでに聞いたんだけどね?先生ならもっと奥の方に行ったって!この道も、先生がいる方向に向かって作ってくれたみたい」
「ならこの道を行けば、先生のいるところに辿り着くのね」
「そう!にしても、こんな森の奥で何してるのかな〜」
「きっとまた道に迷っているのよ」
真莉はそれを聞いて驚いた。校長先生のことはよく知らないが、先生がつくった校則をみんなが守っているくらいだから、きっとすごい方なのだろうと思っていた。
それが、道に迷っているなんて。
「先生は方向音痴だからね〜」
「しかも重度のね。毎回毎回ありえない場所にいるんだから、探す方は大変だわ……」
「あたしは見たこともない場所に行けるから楽しいよ!」
「なら普段から手伝いなさいよね!こっちの世界で先生やってる子たちと手分けして探すの、骨が折れるんだから……」
「呼んでくれれば行くのに〜」
「まずはアンタのことから探さなきゃいけないでしょ……」
吹雪が額に手を当てて、ハアーと溜め息をついた。ようやくラクに進めるようになった真莉たちは、平坦な道をぐんぐん前へ前へと進んでいた。
杏梨がふと、前を見つめて足を止める。それに倣って吹雪と真莉も足を止めた。
「どうしたの?」
「ん〜これもさっき聞いたんだけどね、森がやけに静かなのは魔力の暴発があったからなんだって。ちょうど先生がいなくなった2日前くらいに」
「魔力の暴発……?」
「森が驚くくらいだから、よほど大きな魔力が溢れたんだと思うよ。だから、やっぱり先生のだろうね」
「つまり、強い魔法を使わなければならないような状況に先生が陥ったってこと……?」
「そうなるね。それにほら、さっきから先の方向に微かな魔力を感じない?」
吹雪が静かに目を閉じた。集中するように前方に意識を向けたあと、目を開けて杏梨に向かって頷いて見せた。
「確かに、微かに感じるわ。これが2日前の魔力だとしたら、少し残ってるだけでも異常なことね」
「それに、魔力は進めば進むほど強くなってるよ。先生はいったい何の魔法を使ったんだろ……?」
「もしかしたら本当に緊急事態かもしれないわ。先を急ぎましょう」
二人は歩く足を早めた。真莉も慌てて小走りについていく。二人の間に漂う緊張感に、真莉も自然と背筋を伸ばしてキュッと唇を引き締めた。
しばらく歩くと、突然拓けた場所に出た。というより、その部分だけ木が吹き飛ばされていて無残にも地面に横たわっていた。
「これ、先生がやったのかな……?」
「まさか……」
二人が信じられないという表情でその光景を眺めている。真莉もその後ろで、何も言えずに呆然としていた。
すると、三人の頭上を何かが通り過ぎた。見たこともないほど大きな影に、揃って空を見上げると──。
「あ、あれって……」
「ドラゴンだ!」
真莉の小さな声を掻き消すように、杏梨が嬉しそうに声を上げて目を輝かせる。吹雪はじっと目を凝らすと、突然ドラゴンの背中を指差して叫んだ。
「誰か乗ってるわ!」
真莉も一生懸命目を凝らして、その背中に乗っている人物を見ようとする。ようやく見えた予想外の姿に、驚いて目を見開いた。
(小さな、男の子……?)
「先生だ!」
(え?)
聞き間違いかと思って横を向くが、杏梨も吹雪もしきりに先生!先生!と叫んでいる。訳がわからないまま混乱している真莉をよそに、ドラゴンはぐるぐると迂回しながら三人の元に降りてきた。
「──やあ、よく来たねえ」
先生はふわりと浮かぶようにゆっくりと地面に降り立つと、ニコニコしながら真莉たちにそう声をかけた。
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