暗い森



「まずは先生のいるエリアを探ろう!」


「何の魔法を使うつもり?言っておくけど、先は長いんだからあまりエネルギーを使う魔法は避けた方がいいわ」


「ん〜それもそっか!じゃああそこにいる子たちに聞こう!」


 言うが早いが、杏梨は電線に止まっている二匹の雀におーいと声をかけた。雀といっても、おなか部分の白いところが薄ーくピンクがかっていて、普通の雀ではないらしい。


 杏梨が雀たちと話している間、吹雪が真莉にこそっと教えてくれた。


「こっちの世界にいる動物は、魔法の影響を受けているから普通の動物とは少し違うの。頑張れば会話をすることもできるわ。とても繊細な魔法だけどね」


 いつの間に覚えたのかしら……なんて、雀から話を聞き終えてこちらに戻ってきた杏梨を見ながら呟いた。


「森の方だって!このまま川沿いに歩けばいいからちょうどいいね〜。川が近くにあればいつでも向こうに帰れるしね!」


「そうね。森まではそう遠くないし、今回は真莉ちゃんもいるから最初は歩きで向かいましょうか」


「わかった!じゃあ説明がてらのんびり歩こうね、真莉ちゃん!」


「う、うん……」


 二人のあとをついて歩きながら、真莉は改めてこちらの世界を見渡した。どうやら大体の構図は向こうの世界と同じようである。


 川沿いに歩いていくと森に着くのも同じ。ただ雀やハトなどの色が微妙に違ったり、当たり前のように上空をホウキで飛んでいる人がチラホラいるのが明らかな違いだ。


 そしてなにより、空を覆って揺らめく光が妖しい雰囲気を醸し出している。


「あ、あの。さっきから言ってる先生っていうのは……?」


「先生はね、校長先生のことだよ!」


「校長先生って、私たちの学校の……?」


「そう!先生たちの中で魔法が使えるのは、校長先生だけだよ!あっ美術の先生も使える人だったかな?」


「ついでに学校の説明もしましょう」


 吹雪はこほんと咳払いすると、ピッと人差し指を立てて事務的に説明を始めた。


「まずこの世界は、私たちが普段住んでいる世界ととても似通った世界なの。ただこちらにはもともと人間はいなかったみたいでね、素質のある人間が少しずつ私たちの世界から呼ばれるようになったのよ」


「稀にこっちに住んじゃってるって人もいるけど、基本的にはみんな元の世界での生活があるからね〜。行き来して自由に遊んでるって感じなんだけど……」


「人が集まって過ごすからには、どうしてもルールのようなものが必要になってね。それで、校長先生が校則を作ったのよ」


「校則……?」


「私たちの世界でいう法律みたいなものね」


 どうやら、こちらの世界では学校に属することが前提となっているらしい。大人から子供まで、すべての人が決められた回数学校に通うことが義務付けられている。


「杏梨はサボってばかりだけどね」


 吹雪がじとっとした目で睨めば、えへへっと苦笑いしながら頭に手をやって杏梨は言葉を続けた。


「だって学校で習う魔法って、簡単なものばかりでつまらないんだもん……」


「あのねぇ、学校は基本的な魔法の使い方と安全にこっちの世界で過ごすためのルールを学ぶ場所なのよ?わかってる?」


「それはわかってるけど〜……」


「大体ね、まともに通ってたら基礎から応用まで10回くらいで終わるんだから、とっとと終わらせればいいのに……アンタ3回くらいで行かなくなったでしょ」


「……えへ」


「まったく、教える側の身にもなりなさいよね」


 吹雪がやれやれと首を振って溜め息をついた。真莉が珍しく驚いて声を上げる。


「え……吹雪ちゃん、先生なの……?」


「ああ、教える人は有志で決めているのよ。それなりに魔法が使えれば誰でもなれるわ。本当は杏梨みたいに優秀な人がやるべきなんだけどね……」


「あたしは教えるの向いてないよ〜」


 杏梨があっけらかんと笑う。その向こうに、鬱蒼と茂った森が見えてきた。元の世界の森よりも木が高く葉が生い茂っていて、光があまり届いていない。


 想像以上の不気味な暗さに、思わず真莉が絶句していると。


「あ、着いたね!私たちの世界では立入禁止になってるけど、こっちでは普通に入れるから心配しなくていいよ〜」


 杏梨はそう言って笑うと、なんの躊躇いもなく森の中に入っていく。


 そうじゃない……と心の中で思いながら、真莉もおそるおそる二人のあとを追って暗い森へと足を踏み入れた。




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