先生を探せ!
そろそろ行きましょうか、と吹雪が言ってから早くも20分──。
真莉たちは未だに河原の前で苦戦を強いられていた。真莉たち、というよりは主に吹雪が頑張っているのだが。
「どう!?ピンクに見えてきた……!?」
「え、えーっと……」
「まだ見えない!?」
「ちょっと……まだ見えないです……」
吹雪は川の表面に手のひらをつけたまま、なにやらブツブツと呪文のようなものを唱えている。かなり集中力がいるようで、苦しげな表情だ。
「……少しも、見えない?」
「う、う〜んと……」
真莉は真莉で、じーっと目を凝らして必死に川を見つめているが……どうやらなかなかピンクには見えないらしい。
すでに息を切らしている吹雪を前に、困った顔で言葉を選んでいる。
「ピンクに、見えなくもない……かも?」
「……わかったわ真莉ちゃん。いいのよ気を使わなくて。でも、困ったわね……そろそろ日も沈んでしまうし……そうだ!」
吹雪はなにか思いついた顔でパッと真莉の方を見ると、川を指差して言った。
「私が先に向こうへ行って、手を出して真莉ちゃんを引っ張るわ!初めての方法だから、上手くいくかわからないけど……とりあえずやってみましょ」
「は、はい!」
もう辺りは暗くなり始めている。完全に日が沈む前に、どうにか真莉を向こうへ連れて行かなくては。
そんな使命感に燃えている吹雪は、言うが早いがすぐさま川に飛び込んだ。ばしゃんっと音を立てて、水しぶきがその姿を包み込み一瞬で見えなくなる。
数秒後、吹雪のものと思われる手が水面に出てきた。
「こ、これを掴めばいいのかな……?」
真莉がおそるおそるその手を掴むと、グイッと勢いよく川の中へと引きずり込まれる。水が口の中へ入ってきて、真莉はもごもごと溺れかけた。
──結果としていえば、真莉は無事向こうへ行くことができた。
「……その、なんか、ごめんなさいね」
全身ずぶ濡れで、髪からぽたぽたと水がしたたる状態で──だが。
「あ、いたいた〜!二人とも遅いよ〜って、あれ?」
二人を見つけて駆け寄ってきた杏梨が、そんな真莉の状態を見てきょとんとした顔で首をかしげる。
「なんで、ずぶ濡れ?」
「う、うるさいわね!ちょっと色々あったのよ。私は疲れたから、代わりにアンタがパパッと乾かしてあげてくれる?」
「?わかった〜真莉ちゃんおいで!」
真莉の体を温風でぐるぐると包んで乾かしながら、杏梨は吹雪に向き直った。
「ちゃんと窓は直してきたよ〜」
「そう……お疲れ様」
「ついでにね、学校で先生も探してきたんだけど……全然見つからないからすれ違った子に聞いたら、おととい見回りに行ったっきり帰ってないって」
「先生が見回りに行ったっきり帰ってきてない……ってことは」
「たぶんそういうことだろうね〜」
難しい顔で考え込んでしまった吹雪を尻目に、杏梨は順調に真莉を乾かし終えるとワクワクした顔で言った。
「もちろん探しに行くよね?」
「アンタね、学校にいない先生を探し出すことがどれだけ大変かわかるでしょ?今回はあきらめて、大人しく帰ってくるのを待った方が……」
「でも先生、困ってるかもしれないよ?
今ごろ助けを呼んでるかも!」
「先生に限ってそんなこと……」
「いいの?困ってる人を放っておいて」
「……」
吹雪はこめかみを押さえると、ハアーッと深くため息をついた。そして観念したように杏梨に向き直ると、ピシッと指を突きつけて言った。
「わかった、探しに行くわ。その代わり、見つかったら真っ先に昨日のことと今日のことを報告するのよ?いいわね?」
「はーい!」
杏梨は元気よく返事をすると、またもや何がなんだかさっぱりという顔をしている真莉に向かって、パチンとウインクした。
「説明はあと!
とりあえず、しゅっぱーつ!」
なぜか楽しげな杏梨の勢いに押されて、真莉はおずおずと頷くと、歩き出した二人のあとを慌ててついて行った。
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