もう一度向こうへ




 体育の時間が終わって、教室に戻ってきた生徒たちはいつものように男女分かれて着替えを始める。


 すると、女子が着替えていた方の教室の扉が突如スパーンと開かれた。


「長谷川 杏梨!ちょっといいかしら?」


「わっ吹雪ちゃん!」


「話があるのでついて来てもらえる?」


「ちょ、ちょっと待ってあたしまだ着替えてない……」


「よかったわね。次は休み時間よ」


 吹雪は堂々と着替え中の教室に乗り込んでくると、有無を言わせぬ笑顔で杏梨の首根っこを掴んだ。


 そのままずるずると教室の外まで引きずっていく。


「ま、真莉ちゃん!

真莉ちゃんも一緒に行こ!」


「え!?」


「ちょっと、アンタまたこの子を巻き込んだの!?昨日の今日でまったく……」


 吹雪は呆れ顔で頭を押さえると、溢れ出しそうな小言をぐっと喉の奥に抑え込んで、真莉の方を向いた。


「城見 真莉。あなたも来なさい」


「は、はい……」


 周りからの不思議そうな視線に見送られながら、真莉は手にしていたワイシャツを放り投げると慌てて吹雪の後を追った。


 ──吹雪が足を止めたのは、あまり存在を知られていない学校の中庭だった。


 真莉も初めて来たようで、キョロキョロと辺りを見渡している。ここなら、誰かに話を聞かれる心配はなさそうだ。


「……さてと、どうして呼ばれたのかわかってるわよね?杏梨?」


「えーっと……」


「言い逃れようったってムダよ。

アンタ、こっちで魔法を使ったでしょ」


「……ちょっとだけ?」


「ちょっとだけ?じゃないわ!いったいどういうつもり?昨日はたまたま先生が見つからなかったけど……今日の件も併せて、きっちり話をつけにいくからね」


「え〜じゃあ、真莉ちゃんも一緒でいい?」


「はあ?」


「だって、真莉ちゃんも部外者じゃないでしょ?今日だって真莉ちゃんの手助けがしたかっただけだし……どっちにせよ、先生にも一回会ってもらった方がいいんじゃない?」


「それはまあ、そうかもしれないけど……。でも、まずはアンタをしっかり反省させて、それから彼女を連れていった方が……」


「一緒に行っちゃった方が早いよ!ね?」


「……まあ、それもそうね」


「よし決まり!」


 真莉がポカーンとしている間に、またもや話がまとまったらしい。明らかに真莉も関わっている話なのに、どうして本人が口を挟む間もなく物事が進んでしまうのか。


 とはいえ、真莉にとってはこれも日常茶飯事なのだ。意見を言うどころか、考えもまとまらないうちに話が終わってしまう。


 とりあえず、真莉はもう一度向こうの世界に行かなければならないらしい。


 渋い顔の吹雪と、相変わらず能天気に笑っている杏梨の顔を見ながら、真莉は自分の胸に手を当てて深く息を吸った。





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