増えるトラウマ
天井すれすれをかすめ、重力に従うようにゆるりと回転しながら飛んでいく真莉の体。頭から、壁にぶつかる──寸前のところで、なんとか杏梨が引き止めることに成功した。
ほっとして、息つく間もなく。
「し、城見さん!?先生!城見さんが!」
「ん?どうした?」
「城見さんがあんなところに!!」
後ろに並んでいた生徒たちが、真莉が空中で停止している天井付近を指差して、口々に先生に訴えかけた。
先生が指差された場所に目をやる。周りの生徒たちも、何事かというように同じ場所へ目をやった。
「……?何もないぞ?」
「あれ!?」
杏梨がとっさに真莉の姿を見えなくしたおかげで、なんとか先生には目撃されずに済んだ。透明人間状態の真莉を、とりあえず二階の通路部分に降ろす。
「城見がどうしたんだ?」
「さ、さっき城見さんの体がいきなり飛び上がって、天井近くまで飛んでいったんです!みんなも見たよね!?」
「見た見た!何かに引っ張られたみたいに
びよーんって!」
「びよーん……?確かに、城見の姿が見当たらないが……」
「どこ行っちゃったんだろ!?」
「まさか異世界に連れ去られたとか……?」
「どうしよう……!?」
「落ち着け落ち着け、とりあえず一旦みんな集合しよう。先生のところに集まって!」
徐々に集まってくる生徒たち。集合なんてされたら、今この場所に真莉がいないことがはっきりしてしまう!
杏梨は焦って声を上げた。
「先生!真莉ちゃんなら、さっきお腹が痛くなったといってトイレに行きました!」
言いながら、ぐいっと真莉の体を再び浮遊させると、みんなの頭上を通り過ぎて体育館の入り口まで運んだ。
突然ものすごい力で体を引っ張られた真莉は、驚いて息を止める。
(ぐえっ……ちょ、嘘でしょ……!?)
杏梨が慌てて動かしたために、あり得ないスピードで空中移動させられた真莉は、吐きそうになりながらもなんとか体に襲いかかる圧力と浮遊感に耐えた。
やがて、ストンと床に降ろされる。
「でも、そろそろ戻ってくると思います!」
その言葉を合図に、真莉の姿はみんなからも見えるようになった。
入り口のところで真っ青な顔してうずくまっている真莉の姿に、先生や生徒たちは驚いて駆け寄る。
「おお、ずいぶんと体調が悪そうだな……。腹痛そんなに酷いのか?とにかく授業は見学してなさい」
「は、はい……」
「城見さん、大丈夫……?」
「肩貸してあげる!」
みんなに介抱されている真莉に、遠くから視線だけ送った杏梨は手を合わせてごめん!と口を動かした。それに軽く頷きながら、
(跳び箱よりも、「魔法」の方がトラウマになりそう……)
真莉は誰にも気づかれないように、密かに小さな溜め息を零した。
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