妖しい空の下で




 ──10秒、20秒……──。


 真莉は目を瞑っていた。恐怖に好奇心が打ち勝ち、恐る恐るその目を開けるまでおよそ──1分。


「……わっ!?」


 ゆっくりと目を開けた先に、間近に写った杏梨の顔を見て真莉は飛び退いた。


「ごめんね。なかなか目を開けないから……固まっちゃったのかと思って」


 へらっと笑うと、うーんと伸びをして杏梨は空を見上げた。


「今日も綺麗なピンクだねぇ」


 その言葉に、続いて空を見上げれば。


 ピンク……いや、紫にも見える。何か不思議なエネルギーが空を覆っているように、ユラユラと妖しく揺らめいていた。


 なんだか見ているだけで、生気まで吸い取られてしまいそうだ。


(私、川に飛び込んだはずじゃ……?服も濡れてないし、それにここは……)


「じゃ、さっそく行こっか!」


 当たり前のように歩き出した杏梨を見て、真莉は慌てて追いかける。


「い、行くって……どこに?」


「もちろん、先生のとこだよ!私もね、ずっと抗議したかったんだ〜。あっちの世界でも魔法を使っていいじゃないですかって」


 歩きながら、杏梨がひょいっと指を動かすと、遠くから何かの音が聞こえた。


 ビューーーーッ──……。


(……風?風が鳴ってる?)


 音はどんどん近づいてくる。真莉は目を凝らした。何かが向こうからすごい勢いでこちらに飛んでくる──。


 ……ホウキだ!


 真莉が気がついたのと、杏梨がそのホウキをパシッと手で捕まえたのは同時だった。


「あれ?ホウキで行くよね?

あ、もしかして修理中?」


「……」


 開いた口が塞がらない。本当に固まってしまった真莉の姿に、杏梨はキョトンと首を傾げた。──すると。


「長谷川 杏梨!やっと見つけたわ、アンタまた学校サボる気でしょ……って」


 突然、杏梨の背後から顔を出した彼女は、今まさに怒ろうとしていた顔を驚きに変えて叫んだ。


「ちょっと、どうして魔法が使えない子がこっちの世界にいるの!?」


「……え?」


 すぐさま睨まれた杏梨は、あれ?というように困惑しながら真莉の顔を見る。


 当の本人はいまだに放心状態だ。


「アンタはまたそうやって勝手なことばかりして……」


「ちょ、ちょっと待ってよ!真莉ちゃんは魔法が使えるでしょ?ね?」


 必死な顔の杏梨に肩を揺すられ、ようやく真莉はハッと目を覚ます。震える唇で、なんとか言葉を吐き出した。


「わ、私、魔法なんて使えないです……」


 ──一瞬の静寂。


「……杏梨?」


「え、ええ〜?」


 改めて睨まれた杏梨は、後ずさりしながらただ首を振ることしか出来なかった……。



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