夕方の空は何色?



 

 全ての授業が終わったあと、真莉は慌ててすぐに杏梨の姿を探した。だが、彼女の姿はもう教室に無かった。


 どうやらすでに帰ってしまったらしい。


 ──自覚があるのかわからないが、真莉は行動が遅いのだ。頭で考えてから行動に移すまでが遅い。色々なことが出来ないのは、そこに原因があるといっても過言ではない。


 一方、杏梨はテキパキと行動する。頭の回転が速いためか、よく喋りよく笑い、いつもクラスの人気者だ。


(約束、どうしよう…)


 杏梨をつかまえられなかった真莉は、トボトボと帰り道を歩きながら考えるが……行く以外の選択肢が浮かぶはずもなく。


 結局、時計の針が17時ちょうど。空が赤くなってきた頃。彼女は河原へ向かった。


「……あ、きたきた!

遅かったね真莉ちゃん」


 河原に着くと、先に着いていた杏梨がニコニコと笑顔で近づいてきた。二人並んで、川の真ん前に腰を下ろす。


「あたしね、ここから入るの好きなんだ〜」


(入る…?)


 やはり杏梨の言うことが真莉には理解できない。もう下手なことを喋らないよう、真莉は極力黙って川を見つめるしかなかった。


「川に映った空って綺麗だよね」


「そ、そうだね」


「ほら、今なんて真っ赤!でもそろそろ……あ、ピンクになってきた!」


「え?」


 空がピンクに?


 真莉の見ている川は赤いまま。オレンジ?には見えるけどピンクにはどうしても見えない。顔を上げて直接空を見てみるも、やはり空は赤いまま。


「ピンク、には見えないけど…」


「え?でも、ほら!」


 杏梨は立ち上がると、川の表面を指先でちょんとつついた。すると。


(え……)


 水面が揺れ、波紋が広がると同時に。まるで絵の具を垂らしたように、中央からじわじわと淡いピンクが広がった。


 見慣れたオレンジ色の川は、あっという間にピンクに染まった。


(なにこれ……)


 驚きのあまり声が出せない真莉。そんな彼女の様子には気づかない杏梨は。


「じゃ、行こっか!」


 だらんと垂れた真莉の右手を、自分の方へグイッと引っ張った。


(え?え──)


 一瞬だった。川に向かってトンッと軽やかに飛び出した杏梨につられて、繋がれた手のまま真莉の体は。


 ピンク色に揺れる水面へ、傾くように落ちていった──。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る