空がピンクに見えたなら!

松麗

城見 真莉の悩み





「……魔法が使えたらなぁ」


 クラス一の美少女、城見しろみ 真莉まりは呟いた。


 なにせ、彼女には悩みが多い。テストは常に最下位、体育の授業ではみんなが引くほどのセンスのなさを披露し、それを笑いに変えられるほどのコミュ力もない。


 正直、できることなど特にないのだ。


 それなのに顔だけは目立つから、変な意味で注目を浴びることが多い。


 日々の苦労が絶えない彼女の、悩みを全て解決するには、魔法ほど万能なものが必要だった。……否、彼女の頭では魔法くらいしか思いつかなかった。


「それ、わかるよ!」


 ふいに頭から降ってきた声に、真莉はビクッと体を揺らした。


 そろそろと顔を上げれば、同じクラスの長谷川はせがわ 杏梨あんりが神妙な顔で頷いていた。


「やっぱりさ、こっちでも魔法が使えた方が便利だよね〜」


「……え、っと?」


「あ、ごめんごめん。急に話しかけちゃったね。あたし杏梨!真莉ちゃんと話すの初めてだね〜」


「う、うん」


「でもさ、何も禁止にしなくてもいいのにね?あたしもずっとそう思ってた!」


 真莉は固まった。


 会話の流れがイマイチ理解できない。普段から会話をしないからこうなるのだろうか。どうしよう、早く切り上げないと。


「も、もうすぐ授業始まるから、席に戻った方がいいんじゃない?」


「あ、そうだね」


 杏梨はチラッと時計を見ると、そのまま席に向かうように背中を向けた。思わずホッと息をつく。


「じゃあ、あとでね」


「……え?」


 慌てて顔を上げれば、悪戯な笑顔でこちらを振り返る彼女がいた。


「──夕方、河原の前で」


 河原?学校近くの河原のことだろうか。そこで話の続きをするってこと?


 残念なことに、断ろうと真莉が席を立ちかけた頃には。


 ──キーンコーン……


 始業のチャイムが鳴り、みんなが席に着き始めていた。


 ……これは、後でどうにかしなくては。


 そんな思考に囚われた彼女は、いつものことではあるのだが──その後の授業の内容がほとんど頭に入ってこなかった。



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